個別指導塾うさぎとかめ
佐々井 サイジ
第1話
昔むかしあるところに個別指導塾を運営する会社に就職したうさぎとかめがいました。うさぎは要領が良く人懐っこくて、入社してたった2週間で課長や部長の参加する麻雀に招待されました。一方、かめはというと人見知りで手際が悪く、同期同士の繋がりすら希薄でいつも甲羅の中に閉じこもっていました。
そんなかめのことをうさぎは嘲笑して面白がるために、甲羅に閉じこもったかめに表面上の優しい言葉をかけ続けました。かめは鈍感でウサギの真意に気づかず、唯一仲良くしてくれるうさぎを信頼し、甲羅から出ることが多くなりました。うさぎはしめしめと耳を立て、コミュ障のかめをいじり始めました。
うさぎは入社3年目を迎えるころに、複数地域の教室長を管理するエリア長に昇格しました。一方のかめは副教室長から教室長に昇格しました。一般の社員なら遅くとも2年目で到達するポジションです。二人はお互いの昇格祝いとして飲み会を開きました。うさぎはかめを見下した口調で罵りました。
「後輩に抜かれてたけど追い付いて良かったな」
「エリア長に昇格するのは60歳くらいか?」
「かめは長生きだから1000年は大丈夫だな」
「閉じこもらないように甲羅割ってやろうか?」
「何をするにも遅いんだな」
「俺もお前みたいにゆっくり生きたいよ。いいよな、のろまで」
「頭の回転も遅いんだな」
かめはアルコールに脳が浸されて理性がぶよぶよになっていたので、5,000円をテーブルに叩きつけ、周りの客の注目を引きながら店を出ました。うさぎに罪悪感が芽生える気配もなく、会計で余った2,000円を資金に足してガールズバーに突入し、バニーガールたちとと十五夜を満喫していました。
酒の勢いとはいえ、かめは翌日ウサギに謝ろうとしましたが、発言内容は許せませんでした。努力して見返してやると誓い、ビジネス書を買い込み、ブロック長から指導された内容のメモを帰りの電車で読み直して翌日に実践する地道な努力を続けました。それでも成長曲線は時間軸を平行に辿るだけでした。
一方で営業が得意なうさぎは新規生徒の獲得のために、管理地域の入塾相談会はすべて自身で請け負いました。入塾率は90%を超え、表彰の常連でした。しかし入塾相談会を任せてもらえない不満が部下の中で膨張していることにうさぎは気づいていませんでした。マネジメントスキルは未熟だったのです。
かめの入塾率はいつも50%をうろうろしていました。もう営業系のビジネス本は50冊以上読んでいました。それでも全く数値は変わりません。やはり自分には営業は強みではないと悟りました。それでも営業への努力は怠らず、それと並行して最近自身の教室に赴任した副教室長の指導に力を入れ始めました。
「きみは人懐っこいから僕と違って営業に強みを持つ人に成長できるはずだよ。でも正直、僕は入塾率がダメだから、これはうさぎに聞いた方がいい。でもそれ以外はできるようになったつもりだから、何でも聞いて」
正直な姿勢に感激した後輩は、かめを信頼し、主体的に質問してどんどん業務を吸収しました。
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