第3話 始まり



「ねぇ、文香ちゃん」


「……先生、ね」

「毎日が楽しくなる事、思いついたんだけど」

 あの日の放課後。夕暮れの教室に、私と清純君が二人きりで他愛のない話しをしていた時の事。

「楽しい事?」

「うん。〝恋人ごっこ〟」

「こいびとごっこ?」

「そう。来年、俺が向こうに帰るまでの約一年間、俺と文香ちゃんは恋人とように毎日を過ごす。……どう?」

 私の胸は、彼の言葉にざわつきました。くだらない遊びだと、一蹴すれば済む事なのに。

 私は、私を真っ直ぐ見つめる清純君の瞳に奪われ、捕らわれ、離してはくれず。

 そして、雁字搦めになって。

「駄目です。そもそも私と君は先生と、生徒。そんなごっこ遊びするなら同年代の女の子とすればいいでしょ?」

 それでも私は、教師という立場である事で、理性を失わずにいなければと、彼の戯言だと言い聞かせました。

「文香ちゃんは真面目だなぁ……いいじゃん、〝ごっこ〟だし。それに、俺は文香ちゃんと遊びたいんだって……ね?」


「いけない事なの。私は教師で、君は……」


 そして、私の理性が失われた瞬間、柔らかい清純くんの唇が私の唇に触れて重なり、離れて、また重なって……。


 ――――それが私の初めてのキスでした。


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