89:面倒とかいう問題なのだろうか?

 



 毎日が楽しい。

 かなりたぶんおおよそ平和に魔王と同棲しつつ、お店もワイワイガヤガヤと繁盛している。

 気付けば、魔王と暮らし始めて二年だ。

 間でなんやかんやあったのはノーカンとする。


 ヒロイン(妹)とは手紙のやり取りを頻繁にするようになった。

 今も魔王から渡された手紙をリビングのソファで読んでいるところ。


 天然なヒロイン(妹)がなんやかんやとやらかしては、ヤンデレ王子がなんやかんやしているらしい。対岸の火事なので、文字で見ている分にはとても楽しい。


「多少、同情はするがな。天然は天然だと気付かないものだ」


 横で手紙を覗き込んでいた魔王が苦笑いしていた。


「どういう意味よ?」

「さてな」


 フッと鼻で笑って、視線を手元の書類に戻していた。

 何だこのやろう、オヤツに出してたクッキー全部食べてやる!


「ショコラも食べるー!」

「オレも食べる!」

「ボクは一枚でいいです」


 フォン・ダン・ショコラは…………三頭分裂で出てくるようになった。というか、ずっと人型のままなんだけど、大丈夫なの?

 まぁ、時々は犬型に戻ってるけど。あ、犬って言ったら怒られるんだった。あー、えっと……あ! ケルベロス型だ。


 三頭……三人?とも言葉がしっかりとしてきたし、ちょっとだけ成長もしている。と言ってもまだ十代初めって感じだけども。


 こうやってると、なんとなく五人家族って感じで楽しい。

 まぁ、魔王とは結婚も何もしてないけどね。

 いつだったか、魔王が前世で結婚していた相手はいるのかとかジメジメっとした感じで聞いてきたくせに、あれ以来全くもってなんのアプローチもない。何だったんだあの質問は。

 ちょっとだけ期待してたんだぞこんにゃろめ。


「ん? したいのか? するか?」

「軽っ!」


 びっくりするほど軽く言われた。

 しかも書類から目を離さずに。

 てか、また口から漏れ出てたの? どこから?


「知らんが、結構な長ゼリフで出てた。魔界を挙げての式典になるだろうから、嫌がるかと思ってたが?」

「…………嫌、ですね」

「だろ?」


 魔王の妃になった場合、別にお店は続けてていいが、かなりの数の護衛を置くことになると言われた。

 何故に? と思っていたら素早く解答が来た。

 魔王が持ってる指輪を手に入れられれば、わりと凄い魔力を得られて、魔王になれるかららしい。


「……あの、それって…………に、二センチくらいのゴツいヤツ?」

「ん」

「…………あのそれ、忘れてませんでしたかね? ウチの店に」

「ん」

「なにやってんの!?」

「いや、邪魔で」


 魔王の証を邪魔言うなや!

 そりゃ、あん時おじいちゃんが誰にも渡したら駄目って言うはずだ! てか、おじいちゃん、よく我慢したな!


「魔王なぞ、面倒なだけだぞ? アイツもそれがわかってんだろ」

「………………まぁ、仕事大変そうだけど。でも、凄い魔力……」

「凄いと言ってもなぁ。俺、五分の一くらいが増えただけだしな。誰がどうやって手に入れても、取り返せるし。ただまぁ、お前が危険な目に合うのは、ちょっと嫌」

「……ちょっとなの? …………そこ、ちょっとなの!?」


 そういえばこの魔王って、なんか世界最強とか言われてる人なんだっけね。唐揚げモグモグマンじゃなかったんだっけね。


 『ちょっと』と言いやがった事についてはいつか鉄拳制裁したいと思う。



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