68:つまり魔王は?

 



 魔王の年齢が急に気になった。

 だって、お母さんが亡くなったのが三〇〇年前って、魔王も自ずと三〇〇年は間違いなく生きてるってことよね?

 慌てて話を遮って確認したら、凄く……凄く凄く呆れた顔をされた。

 酷くない?


「ちょ、何で黙るのよ!? 何歳なの? ってか、何百歳だとして、人間に換算すると何歳なの!?」

「…………ハァ。人間に換算すると三〇半ばくらいだ」


 ふぉっ。なるほど、十倍的な感じなのね。

 ほっとした。何にほっとしているのか謎だけど。

 でもどのみち三〇〇年は生きてるんだよね?


「ってことはよ? 魔王の寿命はまだ何百年かあるってことよね?」

「……まぁ、普通に生きられればあと六〇〇年くらいは?」


 よね? そこは予想通り。


「つまり魔王は……私とそんな風に長く一緒には生きたくなくて、人間の寿命程度の期間での付き合いがいい、ってこと?」

「っ!? ふざけるな!」


 未だにソファに押し倒されたままの格好。目の前というか真上で怒鳴られて、少しだけビクリと震えてしまった。


 体格的にも能力的にも魔王になんて勝てない。魔王が本気になれば、私や人間なんてミジンコと同レベルでプチッと殺してしまえる。

 でも、私が震えたのはそういう怖さというよりは、魔王が本気で怒って、突き放されてしまうかもという怖さだった。

 

 違うって言ってほしくて。

 この変な関係をどうにかしたくて。


 ――――お願い。

 

「……違うなら、なんで? 手放そうとするの?」

「っ、だから! 魔族になって、狂ってしまうから!」

「じゃあなんで一緒に住んだりしてたの!?」

「………………愛……してるんだよ……ルヴィを。初めはそれでいいと思っていた。魔族になってずっと一緒に、と……」


 ヒロイン(妹)たちと話している内に、人間は魔族になってしまうことは、心底恐ろしいと思っていることに気がついた。そして、母親の事を思い出したんだと言われた。

 魔界で暮らすうちに角が生えたり、耳が尖ったり、牙が生えたり。

 人間にとって魔族は、恐怖の対象でしかないのだと。

 協定を結んでいるからこそ、付き合っていける相手なのだと。


 ヒロイン(妹)には、私と付き合っていて、一緒に住んでいたことは言えなかったらしい。

 

「魔族に変貌してしまったら、人間はみな心が壊れてしまう、とお前の妹に言われて……そんなのは嫌だと思ったんだ。あんなふうに…………死んでほしくない…………」


 魔王が泣きそうな顔で、また笑った。

 魔王は、臆病で馬鹿だ。



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