67:ちょい待ち!

 



 ソファに押し倒してきた魔王を見上げた。

 サラサラの銀色の髪が私の頬をくすぐってくる。

 頭の横に生えたくるんと丸まった黒い角は何度みても、ちょい可愛い。

 

 しかし、自分から突き放した元恋人を押し倒すとはいい度胸だ。

 眉をへちょんと下げているから、このあとの事を何も考えてなかったって感じ。


「馬鹿魔王。勢いで押し倒して、後悔しないでよ。本当に馬鹿なんだから」

「……ん」

「ねえ魔王。なんで突き放したの?」

「っ――――」




 ◆◆◆◆◆




 ルヴィはいつ見ても、炎のように熱い瞳をしている。

 生気が漲っていて、力強く、いつも視線を逸らさない。


「ねえ魔王。なんで突き放したの?」


 もう、答えるしかないんだろう。

 臆病な俺の、臆病な想いを。


「…………知られたくなかった」


 俺の母親は人間だ。

 三〇〇年ほど前に死んだ。

 一時期は父親――先代魔王と仲睦まじくしていたらしい。だが俺を身籠り出産し、身も心も狂った。


 父親と俺の魔力が混じり合い、母親の体に変調をきたした可能性が大きい。

 母親の側頭部にはスパイラル状で上に伸びる角が二本生え、肉食獣のような牙も生えた。

 そして生まれた俺には、自分とは違う形の角が生えていた。

 父親と俺は同じタイプの丸角で、牙はなし。

 角の形くらい色々とあるだろうと思うのだが、人間は遺伝というものを重視するらしく、自分だけ形の違う角だったこと、牙が生えたことが、産後の不安定な精神状態に追い打ちをかけたらしい。


 母親は、父親を憎悪の対象と認識していて、父親は顔を見せただけで攻撃魔法を繰り出されていたと苦笑いしていた。

 簡単に避けれるけれど、避けると泣かれるからなぁ。とボロボロになりながら悩んでいた。

 そのため、まだ幼かった俺は母親から離されていた。


 そして、食事を一切受け付けないようになり、徐々に弱り痩せ細って、俺が十歳の頃に死んだ。


「ちょい待ち!」


 ルヴィからストップが入った。

 押し倒した格好で話していたので、顔面を鷲掴みにするような形でのストップ。

 コイツは本当に貴族の娘なのだろうか、と今でも思う。


「なんだ?」

「魔王って、実はかなりのジジイなの!?」

「……」


 今の話を聞いて、一番に気にするところはソコなのか?

 もっとあるだろう?

 

「ちょ、何で黙るのよ!? 何歳なの? ってか、何百歳だとして、人間に換算すると何歳なの!?」

「…………ハァ。人間に換算すると三〇半ばくらいだ」


 面倒に思いつつも答えると、ルヴィがニヘラっと笑った。

 こういう無防備な笑顔が愛おしくて、本気で手放せずにいた――――。

 


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