66:話しておきたいことがある。

 



「ルヴィ、少し……いいか?」


 部屋の説明を受け、お風呂に入り、ソファに座って湯冷ましをしている時だった。

 魔王が魔王な格好じゃない。ラフな感じのダボッとしたボタンシャツとズボンだったので、魔王もお風呂に入ったのかな。


「なに?」

「人間界に行く前に話しておきたい」

「うん?」


 真面目な顔でソファに座ってくれと言われた。

 馬鹿魔王の事だから、ローテーブルを挟んで座るのかと思ったら、広い方のコーナーソファに横並びに座った。

 ちょっと気不味い。

 魔王もそう思ってるみたいで、視線が揺れ揺れ。


「人間界で、色々と言われるかもしれん。妹たちは絶対に大丈夫だが」

「ん? 何を?」

「…………魔族に魂を売ったとか、身体を売ったとか、まぁそれ系だ」

「ん? 売ってないけど?」

「知っている。ルヴィはそういったことに興味がないのは」


 ――――んんん?


 魔王が何を話したいのか、いまいちわからない。

 魔王のパートナーとして夜会に出ることで私に不利益がある?

 私に不利益があってもいいけど、ヒロイン(妹)たちや魔王に不利益があるのはちょっといやだなぁ。


「だが、『魔族と体を繋げて、永久の美貌を手に入れようとしている悪女』や『悪女の成れの果て』などと言われ続けるのは、正直我慢ならんと思う」

「…………ん?」


 ――――んんん?


 魔王が何を話したいのか、いまいちわからない。第二弾。

 永久の美貌とはなんじゃらほい?

 成れの果てとはなんしゃらほい?


 私がぽかぁぁぁんとしていることに気づいたのであろう魔王が、慌てた様子で言葉を取り繕いだしたけど、言い方が悪かったとか、言葉が酷すぎて傷付いたとかは全然関係なくて、本気で意味が分からんっ!


「あのぉ」

「な、なんだ?」


 妙に焦った感じで魔王が返事するのがちょっと面白い。


「先ず、魔王というか、魔族と体を繋げたら? 何がどうなって永遠の美貌を手に入れれるの?」

「……は?」

「……へ?」


 魔王いわく、魔族でも一部の種族が相手の話だが、性的な関係を続けていると人間でも魔力を得られる。実際は心の繋がりが大きく関わってくるのだが、人間はそこを勘違いしている。

 心の繋がりが強く、魔力を得て起こる変化は、人間の魔人化。

 パートナーと同じ長寿になり、悠久の時を得る。

 また見た目も変化しだす。

 成す子は、間違いなく相手と同じ種族になる。


「――――まじかぁ!」

「知らなかったのか……」


 驚くほどに知らなかったんだけど。


「ん? んんん? あのさ、魔王」

「なんだ?」

「……まさか、それだけで私を人間界に捨ててったとか?」

「…………っ!」

 

 はい、ゲロったも同然の反応いただきました。

 クワッと目を見開き、瞳を揺らして、スイィィっと逸らす。

 バレバレやないかい!


「ちょっと、キッチンどこ? 玉ねぎのすり下ろし探してくる」

「やめろバカ」


 手首をガシッと掴まれて、ソファに押し倒されてしまった。



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