65:箱の中身。

 



 魔王に夜会の打診をされた三日後、開店準備をしにお店に移動すると、カウンターの上に見慣れない大きな箱が置いてあった。

 両手でどうにか抱えられる大きさで、重さはそこまで重いというわけでもない。

 

「なにこれ?」

「まおうのにおいがする」


 ダンがフンフンと鼻を動かしつつ、そんな事を言う。

 犬というかケルベロスがそういうんだからそうなんだろうね。


 箱のフタをパカリと開けると、真っ赤な布が見えた。


「これって…………」


 真っ赤なノースリーブのAラインドレス。

 胸元はストレートカットで、ウエストまで銀糸で細かなバラの刺繍が施されている。

 緩やかに広がった裾はオーガンジーを何枚にも重ね歩くとふわりふわりと揺れそうなデザインだった。

 そして、裾から二〇センチほど胸元と同じように銀糸でウエストに向かって伸びる蔦とバラが刺繍されていた。


 もの凄くおしゃれで豪華なドレス。

 私好みのデザイン。を、魔王が送り付けてきた。というか、たぶん転移で侵入して来たんだと思う。

 居住スペースに置かなかったのは、魔王なりの配慮?

 魔王のくせに。


 ――――ほんと、馬鹿。




 魔王の事を馬鹿馬鹿と罵り続けていたら、夜会の前夜になっていた。

 お店は二日間の休みを取った。

 お客さんたちは何をするかは聞かずに、たまにはいっぱい休んでゆっくりしなよと言ってくれた。


「迎えに来た」


 今日の夜から魔王城に泊まって、明日の午前中はドレスアップの準備。夕方に人間界に転移する予定。


「今帰ってきたの?」

「ん」


 魔王は朝から人間界で契約更新や会合など色々とこなしていた。夜は私を迎えに来るためだけに魔界まで帰ってきてくれたらしい。

 ご飯を食べていないとのことだったので、チャーハンを手早く炒めて、ストック分のオニオンスープをだした。


 チャーハンは何の変哲もないシンプルなもの。卵と塩コショウと醤油だけ。

 オニオンスープは、いろんなことがあってすり下ろされまくった玉ねぎたちの一斉消費で出来上がったもの。


「ん……美味い」

「うん」


 なんとなく後ろめたい気分になりつつ、魔王がご飯を食べる姿を眺めた。




 魔王城に瞬間移動し、客間に連れてこられた。

 大きな部屋の中には、家にあるものと同じくらいのベッドと、レターデスク、ローテーブルと五人くらい座れそうなコーナーソファと、対面に三人掛けのソファが置いてあった。


「「よろしくお願いいたします、ミネルヴァ様」」


 そして、侍女が六人。

 実家でも専属は一人と諸々の雑用の二人で、常に側にいるのは三人だった。

 

 ――――多くない?



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