69:ちゃんと陥落してて。

 



 臆病で馬鹿な魔王。

 そんなことで怖がって。


「馬鹿ね。これだけ楽天的な私が、たったそれだけの事で心を病むと思ってるの?」

「…………保証はない」

「そうね。実行してしか、結果は出せないわよね?」

「っ…………クソ」


 魔王がボフリと倒れ込んで来た。重たいんですけど? 乙女にあるまじき『グエッ』とかカエルの潰れたような声が出ちゃったんだけど?

 魔王は首筋に顔を埋めたまま全然退いてくれない。しかも、あー……とか、うー……とか、なんか唸ってるし。何なの? 呪いの呪文か何か?


「魔王、私はね、守られているだけなんて嫌。パートナーとは隣同士で手を繋いで歩いていきたい。人間は確かに弱い存在だわ」


 魔族がどれだけ強くて、どれだけ凄いかなんて、計れもしないけど。きっと凄いんだろうなぁとは思う。

 でもそれは全体で見た感想。

 魔王は、臆病で馬鹿。

 

「人間だからと一括りにしないで。私はここにいて、私として生きてる。魔王の目の前でミネルヴァとして生きている」

「ん…………ごめん」


 覆い被さって首筋に顔を埋めたまま、ボソリと謝られた。


 やっと、魔王の本心が聞けた。

 やっと、魔王が受け入れてくれた。

 やっと、想いが通じ合った。


 ――――やっと。


 目頭が熱くなって、視界が揺らいで、喉の奥がギュッとしまって、息苦しくなって、嗚咽が漏れた。


「ルヴィ?」


 異変に気付いたらしい魔王が、起き上がって焦っているのがわかるけど、私は必死に息をするしか出来なくて。目尻から横に流れ落ち続ける雫を手で拭い続けるしか出来なくて。


「っ、ばかぁ」

「ん」

「ヘタレまおぉぉ」

「ん」

「はげぇ!」

「ん、はげてはない――――こら殴るな」


 ただ、嗚咽と罵詈雑言を吐き出して、反論したらポカリと殴っておいた。


「おぐびょぉものぉぉ」

「ん、そうだな」

「ちゃんと陥落しててよぉぉぉ」

「ん、すまなかった」


 魔王が柔らかく微笑みながら抱き起こしてくれた。

 なぜかソファに座る魔王の膝の上に乗せられ、向い合せで抱きしめられたけど。

 魔王の膝に座って魔王の腰を跨いでいるから、太股が丸出しになっていて…………なんて言うか、ちょっとあられもない格好。

 

 もぞもぞと動いて、膝から下りようとするのに、がっちりと腰を掴まれて逃げられない。


「……魔王?」

「愛している。何があっても、一生側にいてくれ」

「っ、うん」


 しっかりと目を合わせ、低い声でそう告げられた。

 悔しいほどに、格好良かった。

 


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