59:生来の脳筋。

 



 本気で怒った!

 私は基本的に脳筋なのだ。そして本来のミネルヴァも相当な脳筋。じゃなきゃ、こんなにも愛らしい妹をシバこうなんて考えないだろうし。

 生来の脳筋は大活用しなきゃね。

 なので、行動あるのみ!


「シセル、お願いがあるの」

「はい! 何でしょうかお姉様っ」


 王太子妃になったはずなのに、なぜにこの娘はこうも従順な感じなのかしら? もしやドM!?

 ちょっと可愛いわね。


「用意して欲しい物があってね――――」




 従順なるヒロイン(妹)をパシッて、人間界に戻されて二日で準備完了。

 経費はクソ魔王に支払わせると約束した。


「じゃ、行ってくるわねー。今度からは、ちゃんと手紙を書くわ」

「はい! お姉様、お気をつけて。ご武運を!」


 人間界と魔界の境界線で馬車から降り、魔界に向かって歩き出す。

 同乗して見送りに来てくれたヒロイン(妹)が窓からブンブンと手を振ってくれている。

 こういう送り出し方、流石ヒロイン。テンション上がるわぁ。


 前回用意してもらったものと同じ各種調味りょ……違った。各種スパイスボムの準備は万端。それに加えて、今回は雷魔法が付与されている鞭も用意してもらった。人間界では大型の動物や肉食獣の調教に使われているらしい。

 服は冒険家みたいな、ポケットがいっぱい付いたシャツとズボン姿。

 なかなか格好良い。


 ――――スパァァァン!


 一メートルほどの鞭を振るうと、かなりいい音が出た。

 なにこれ、クセになりそ。


「「クキュュュン」」


 鞭を持ってニヤニヤ歩いていたら、聞き覚えのある鳴き声が近くから聞こえて来た。

 どこだろと見渡すと、進行方向にある大きな木の後ろでチラチラこちらを見る存在。


「フォン・ダン・ショコラ!」

「「ワフゥゥッ! ワウッ!」」


 ワフワフ言いながら走ってきて、三頭に顔をベロベロと舐められた。


「どうしたの? なんでここにいるの?」

「「ワフゥ! ワフンバフッ!」」

「いや、なんて言ってるか分かんないし」


 フォン・ダン・ショコラにしょんぼりされた。人型になりなよと言うと、前脚をクイッと上げて見せられた。

 おんや? 腕輪がない。魔王が回収したのかと聞くと、三頭ともが首を振った。自分で返したのかと聞くと頷かれた。

 なぜに返したんだ。くれたんだからパチッとけばいいのに。


「「わふぉぉ」」

「ちょ! なんでそんな『駄目人間』みたいな声出すのよ!」

「「キャウキャウッ!」」


 三頭が楽しそうに吠えているので、私も笑いが込み上げてきた。

 迎えに来てくれたのかと聞くと三頭ともに頷いてくれたので、心から嬉しくなった。抱き締めてお礼を言うとまたもやベロベロと舐められた。

 

「もぅ。顔がベタベタじゃない。ほら、家に帰るわよ!」

「「ワフォーン!」」



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