54:ミネルヴァという女
ルヴィの生い立ちと人間界を追放されるまでを聞いたが、俺の知っているルヴィと違いすぎる。
人間が魔界送りにされても特に気にしていなかったので、報告は不要としていた。どうあがいても魔獣たちに殺されるだけだから。
稀に生き残れるものもいるが、魔法の使えない人間は魔族にはどうやっても勝てない。よほど狡猾でない限りは、まぁ……野垂れ死ぬか奴隷かだ。
さらに稀にルヴィのようなパターンや、奇跡的に獣人系に拾われ溺愛されるものもいる。そこらへんは拾ったやつの責任ということにしている。
報告をもらうようにするべきか。だが、生き残れるのは本当に稀だ。その稀の為に他国からも含めると年一〇〇〇件近い魔界送りの報告は……現実的ではない。これは一応保留にしておこう。
「両陛下、発言をお許しください」
王太子妃が国王と俺に伝えたいことがあるという。
「許可する」
「お姉様は……お姉様ではありません」
「「――――は?」」
初めは、何を頭のおかしなことを、と思った。が、聞くうちにそれは真実かもしれないと、確信のようなものに変わった。
ある日、ケーキに毒が入れられている!とミネルヴァが叫び出した。しかも入れたのは自分だと。
ミネルヴァがガゼボでお茶をしよう、仲直りしたいと言い出してお茶をしていた席でだ。
シセルは今度はどういった方向性の嫌がらせなのだろうか、と辟易としていたらしい。ところがあまりにも慌てふためくミネルヴァの姿に何かが変だと思い直した。
「その…………あのとき……あまりにもお姉様がニヤニヤとしながらお茶を差し出して来るものですから、カップを入れ替えたんです」
「……は?」
「っ…………お姉様にも謝ったのですが………………たぶんあのとき、本当のお姉様は死んだんじゃないかと…………」
「「はぁ!?」」
ミネルヴァが紅茶を飲んだ瞬間、ビタリと止まって、虚ろな目になったのだと。そうして数分後、急に慌てふためき出したらしい。
『ケーキに毒が入っている、いや、ヒロインは食べない! あれ? なんでだっけ? あ、紅茶を飲んで、手が震えて、ケーキ落として、リスが食べて、リスが死んだんだ! てか、コンプライアンス! どぉなってんの!?』
そう、叫んだという。
ものすごく、ルヴィ感がある。驚くほどに、ルヴィのいつもの口調だ。
眉間を揉みながら考える。が、意味がわからない。
「それから、お姉様はこの世界で何があるのかを教えてくれました。そして、私には幸せになって欲しいと。自分は来月には断罪されるから、それを受け入れる……振りをすると」
「「ん?」」
――――振り?
ここまで悪事を働いているから、人間界は生きづらい。魔界って結構過ごしやすそう。魔界に入ってすぐの森で魔獣をどうにかやり過ごせば魔界の王都みたいなところに入れる。入ったらこっちのもの。定食屋開いて魔族の胃袋掴んで、ウッハウハする! と言い出したらしい。
――――完全に、ルヴィだな。
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