53:ルヴィの過去
ルヴィと同じような波動を放つ女が、目の前で泣き出した。
波動は、オーラや心の本質などともいえるようなものだ。人間にはほぼ魔力がないが、この波動は誰しもが持っている。
波動が合う合わないで相性が決まったりもする。が、私は特に気にはしない。
なぜなら、ヒヨルドの波動は心底合わない。が、考え方は合うし、仕事はしやすい。ガキみたいな喧嘩をしても、翌日にはいつも通りに共に仕事をしている。
ルヴィの波動は、どうということもない普通の波動。
悪女で追放されたということが信じられないほどに、普通。
この妹という女もそれと同じだった。
守りたくなるほどに、素朴。
貴族特有の圧力に近いようなものがない。
――――何かが変だ。
「ルヴィは……ミネルヴァは、何をして人間界を追放になった?」
「っ!? まさか! あの性根の腐った悪魔のような女は、魔界で生きてい――――ギアァァッ」
喚き散らし出した王太子の顔面を鷲掴みにする。怒りで握り潰しかけたが、すんでのところで我慢した。
何があろうと、俺のルヴィを悪しざまに言うことは許さない。
たとえ、王太子の近衛騎士たちに剣を向けられようとも。
「それ以上、口を開くな。喋るな。殺すぞ」
「魔王! これはいったい何事かね!?」
俺の怒りに気づいたのだろう、近くで歓談していた国王が慌てて走ってきた。片手で私に剣を向けている近衛騎士たちを制しながら。
「人払いを。怒りでこの国ごと吹き飛ばせそうだ」
「っ! 総員っ――――」
晩餐会は強制的に終了させた。
国王、王太子、王太子妃、そして俺の四人が会議室に集まった。
「先ず、ミネルヴァ嬢は魔界で暮らしているというのは誠かな?」
「その女と同じ波動のミネルヴァで間違いないのであれば、そうだろう」
「すまないね。私たち人間には波動は読めないのだよ」
全く。不便なものだ。
「まぁ、先ほど確認した限り、その女のいう姉と同一人物の可能性が高い」
「あの女、生きて――――」
「お前は口を開くなと言ったが?」
「っ!」
何かを言いかけた王太子に魔法で作った氷の短剣を飛ばす。鼻先で止めてやった事に感謝してほしいものだ。
グスグスと泣きすすり続ける女も煩いが、波動がルヴィとほぼ同じせいで、どうにも強く言えない。
「煩い。鼻をすするな」
「ごごごめんなさい」
これでも優しい方だ。
「先ず、ルヴィの仔細を知りたい。国王――――」
ミネルヴァ・フォルテア侯爵令嬢。
――――アレが侯爵令嬢?
生まれたときから王太子妃候補として育てられていたものの、ミネルヴァの妹であるシセルと王太子が恋に落ち、歯車が大きく狂っていく。
王太子と想いを通わせていく妹に嫉妬し、幾度となく手酷い仕打ちをしていた。
家では食事に微量の毒を盛ることも多々。
王太子と妹のシセルが婚約をしたことにより、さらに仕打ちは酷くなっていった。
暴漢を雇い、妹を襲わせ、亡き者にしようとしたのだ。
それを王太子が未然に防ぎ、シセルを救出。
暴漢とシセルの証言で犯人はミネルヴァだと発覚し、裁判にて糾弾のち魔界送りの刑となった。
――――あのルヴィが、そんなことをするか?
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