52:妹と名乗る女

 



 エーレンシュタッドの王城にて国王に竜人を見つけた報告をすると、感謝として晩餐会を開きたいこと、貿易などの話も少ししたいので、明日の朝から会議が出来ないか、と聞かれた。


 逃走した竜人と貴族の娘の事は確かに了承した。

 基本は穏やかな竜人だが、番を見つけると何も見えなくなる。魔力も多く戦闘種族でもあるため、人間には本気になった竜人への対処法はなにもない。

 そのため、何かあった場合は俺が動くことになっている。だからこそ了承したのだが。


 たぶん、三日ほどの時間を作って欲しいと言っていたのは、捜索がすぐに終わった場合に、これらを後出しするつもりだったからだろう。

 

「どうですかな?」

「まあ、いい。了承した」


 ルヴィに人間界の土産でも買って帰るのもいいだろう。




 晩餐会は立食形式でダンスなども行われ、とても豪勢なものだった。並んでいる食事は魔王城で食べているものと遜色ない。

 つまりは、ただの豪勢な料理で、食べたいという気持ちが起きないもの。


 給仕からワインを受け取り飲む。

 高級なものを飲んでも食べても、そこまで美味いと感じない。美味いは美味いが、美味くない。不思議なものだ。


「魔王陛下、紹介させてください」


 エーレンシュタッドの王太子が人間の女を連れて挨拶に来た。最近結婚したらしいから妃だろう。


「魔王のウィルフレッドだ。よろし――――ルヴィ?」

「へ?」


 緩やかなウェーブを描いた金色に近い髪と、零れ落ちそうなほどに大きなオレンジ色の瞳。

 色合いは似ていない。顔も似ていない。なのに、ルヴィと同じ波動を感じる。


 ――――いや、別人か。


「すまない。知り合いに波動が似ていたもので」


 挨拶をやり直そうとしていたら、王太子妃がズイッと近付いてきた。他人との距離感の近い女だな。


「そっ、そのルヴィというお方は、魔族の方なのでしょうか!?」

「シセル!?」

「…………なぜ、ルヴィを気にする?」

 

 王太子が焦ったような顔なのも気になるが、シセルというらしい王太子妃の反応と波動も気になる。


「ルヴィというお方が、女性で人間だったらと……」

「…………なぜだ」

「私の、姉だからです」


 ルヴィを姉と呼ぶ女。

 ルヴィの妹と名乗る女。

 ルヴィと同じ波動を出す女。


「お前のいう『ルヴィ』の本当の名と特徴を言え」

「魔王陛下! 私の妻にそのような言葉遣いをしないでいただきたい!」

「殿下は黙ってて! ルヴィは私の大切な姉で、ミネルヴァ。特徴は――――」


 王太子妃の口から出てきた姉の特徴は、ルヴィそのものだった。

 

「お姉様を知っているのですか!? お姉様は無事なのですか!? お姉様っ…………ミネルヴァ姉様っ……」


 女がわんわんと泣き出した。ルヴィと同じ波動で。

 妙な気持ちになってしまう。

 この女を護らねばいけないような。

 抱きしめなければいけないような。


 ――――違う。コレじゃない。

 

 本能で伸ばしかけた手を抑え付け、下ろす。

 この女は、危険だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る