47:バレていた。

 



 定食屋で魔王の胃袋陥落計画が本人にバレていた。

 私の後ろで魔王が魔王な笑い声で、笑っている。

 完全にパニック。

 私は何を言っているんだろう?


「ん。俺の目の前で、デカい声で言ってた」

「……まじ?」

「ん。バカで可愛い」


 首筋にちゅーっと吸い付いてくる。

 やめろぉぉぉ、甘い空気とか出すなぁぁ、痕とかつけるなぁぁぁ!

 私は今から仕事なんじゃぁぁぁ!

 既にお天道さまが登りきってるんじゃぁい!


 そう、今日は普通に土星の日である。かき入れ時なの。

 諸事情でフラフラはしてるけど、休まないからね!


「あっ、魔王! 仕事は!?」

「ウィル」

「もぉ、面倒だなぁ。ウィル、仕事は?」

「ある。城に戻る」


 ――――あるんかーい!


 しかもいつもなら既に始業している時間だったらしい。

 そういうのは駄目でしょっ!

 大人として、絶対に駄目でしょ!?

 

 慌てて貯蔵庫から作り置きのサンドイッチを箱に詰めて、朝兼昼ごはんとしてウィルに渡した。


「いってらっしゃい!」

「――――!? んっ」


 瞬間移動で消える直前、ほにゃっと笑ったウィルの顔は、世界を崩壊させられるんじゃ?と思うほどに、甘く緩んでいた。




 ダンと二人でバタバタと開店準備をして、お客さんたちを迎え入れる。

 最近は開店と同時に何人か来てくれるようになっている。


「ミネルヴァちゃん、なんかいいことあった?」

「えー? なんでです?」

「なーんか、いつもより楽しそう?」

「いつも楽しいですよー」


 カウンターに座っているセクシー下着屋さんのシモーヌさんがスンスンと鼻を動かした。


「強くて濃い魔力の匂いがするのよねぇ? フォン・ダン・ショコラちゃんじゃないもの。別のオスの濃厚なマーキング臭……っていうか、彼氏できたでしょ?」

「つおわっひょぉぉい!?」


 恐ろしいほどに的確なことをわりと普通の大きさの声で言われて、慌てすぎて持っていたコップを落としかけた。

 

「そそそそれより、シモーヌさんがこの時間に来るの珍しいですね!?」

「……思いっきり、話を逸したわね。まあいいわ」


 シモーヌさんとジュリーさん、二人で新作セクシー下着の開発をしていて徹夜明けらしい。一切ご飯を作りたくないので食べに来たそうだ。


「ジュリーはさっき寝たから、夕方に食べに来るんじゃないかしら?」

「シモーヌさんは寝なくていいんですか?」

「私はご飯食べないと寝れないのよぉ」


 私もシモーヌさんと一緒で食べないと眠れない派だ。

 そんな人向けにさっぱり系の定食なんてのもいいかも?


「ほら、あちーから、ゆっくりくえよ」

「ダンちゃん、ありがとぉ」

「ちゃんいうな」

「やぁん、ツレないわねぇ」


 ダンがシモーヌさん注文のクリームシチュー定食を運んできてくれた。口は悪いけど、優しさが滲んでいるので、注意せずそのままにしている。

 何気にそれがイイと人気だし。



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