46:好きだ。
「…………好きだ」
後ろからお腹に手を回され、ギュッと抱きしめられた。
魔王にすっぽりと包まれて、背中だけでなく体全体が暖かい。
耳元で囁かれた言葉は、酷く掠れていたのに私の中で甘く響いた。
心臓が締め付けられて、息苦しい。
「っ……」
「ミネルヴァ。ルヴィ」
「苦しいわ。離して」
「………………嫌だ」
離してって言ったのに、魔王はさらに強く抱きしめてくる。
「何も言わずに消えたり、勝手に出てきたり。嫌いよ」
「消えたのは…………ヒヨルドを殺して、お前を手に入れたかったからだ」
――――!?
「こっ……殺!?」
「失敗した」
びっくりした!
ちょっと本気で心臓止まるかと思うくらいにびっくりした。
失敗したってめちゃくちゃ悔しそうに言ってるけど、ヒヨルド大丈夫なの!? 魔王と渡りあえるくらいに強いの!? ひょろモヤシなのに?
「ルヴィ」
「……」
「……ルヴィ、ルヴィ」
返事をしないといけないみたい。ずっと名前を呼んでくる。また愛称に戻ったけど。
「なに?」
「こっちを向け」
抱きしめてるくせに、振り向けという魔王。そんな無茶な。鬼なの!? 振り向いてほしいのなら、腕の力を緩めなさいよ。振り向けないのよ。そう言うのに、逃げるから嫌だという。
「……じゃあ、私も嫌よ。絶対に振り向いてあげない」
「ふっ。悪い女だ」
「そうよ。私は悪役令嬢だもの」
「
「さぁ? どうかしら? 魔王が確かめて?」
魔王の腕の力が抜けたので、体を捻って魔王の方に向き直る。
両腕をスルリと伸ばして魔王の首に掛けると、少しだけ目を見開かれた。
「――――ウィルフレッドと」
「ウィル」
「ん。お前はやっぱり悪い女だな」
どちらともなく重ねた唇は、ワインにしては甘い香りに包まれていた。
◇◆◇◆◇
スンスンと首筋の匂いをしつこく嗅いでくる男の鼻息が、正直うざい。
ベッドで後ろ抱きにされているから逃げられない。
好きっていう淡い想いを伝えあっただけのはずなのに、気付いたら魔王と朝チュンしてるんだけど?
どゆこと?
いやまぁ、全部覚えてますけどね。
取り敢えず――――「ウィル、暑苦しい」言えることはコレ。
「ん……これでどうだ?」
ウィルが何かを呟きながら、指を空中でフィッと動かした。
肌に感じるひんやりとした空気。
物理的に、と言っていいの? 部屋を寒くされた。
――――そういうことじゃない。
ん? っていうか、この人、空調設備役できるの!?
え、便利なんだけど!
ここに住むとかアホなこと言い出してどうしようとか思ってたけど、夏と冬がめっちゃ過ごしやすくなるわよね?
「ここに住む」
「あーもー、はいはい!」
「ん。計画通り俺を陥落させたんだ、しっかりと餌付けしろ」
「――――!?」
なっ、なんでそれを知ってるのぉぉぉ!?
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