42:悪魔のささやき。

 



 魔界に来て半年が過ぎた。

 わりと忙しくしているけれど、ルヴィ食堂をやるのは楽しい。月の給料は前世の倍くらいになってるし、フォン・ダン・ショコラの分の給料も払えている。


 三頭にはそれぞれでお財布を作ってあげた。

 魔王いわく、あと一年くらいで三頭同時に人型になれるはずだとのこと。人型になれる怪しい指輪の魔具のことはスルーすることにしている。

 だってあんなに楽しそうに過ごしているのに、今更フォン・ダン・ショコラたちにケルベロスな魔獣型で過ごしてね。なんて、言えないもん。


 魔王は相変わらずお店に来る、偽ヒヨルド姿で。居住スペースにも来るけど、その時は魔王の姿のまま。

 謎。

 だけど、ツッコミを入れたら、何となく来なくなってしまうかもしれない。そうしたら、なんかちょっとだけ寂しい。

 そんな、妙な気持ちが芽生えてしまってる。


 魔王の胃袋は陥落してる気がするけど、私の心も陥落してる気がする…………。

 まだ、認めたくないから考えないようにしている。 


「おかわり」

「はーい」


 今日も魔王は、唐揚げ追加トッピングでカレー。

 色々と浮気はするものの結局カレーに戻るらしい。

 カレーの種類を増やしたらどうなるんだろうか……とか悪魔がささやく。

 何種類もカレー作るのは面倒だぞ、と別の悪魔もささやく。


「ねー、どっちの悪魔に従った方がいいと思う?」

「何の話だ」

「いやぁ、悪ーい計画遂行する悪魔か、怠惰の悪魔か……迷ってるのよね」

「説明が雑すぎて、意味不明すぎる」

「めんごー」


 おかわりを渡すついでに魔王に相談したら、アイアンクローされてしまった。

 まったく、魔王は酷い男よね!




「で、悪い計画を遂行する悪魔のささやきに従いました!」

「…………? そうか。オムライス定食」


 偽ヒヨルドな魔王がお店に来たので報告したら、軽やかにスルーされた。


「却下します!」

「……」

「新作食べろ!」

「…………ん」


 ――――よし!


「まてまてまてまて! 今の流れで魔……お主はなぜ受け入れとるんじゃい! 立場っ!」


 隣に座っていたナマズなおじいちゃんが全力ツッコミしてきた。魔王に新作食べさせたいのにぃ。


「ルヴィは人の話を聞かない」

「…………そうじゃが。そうじゃがっ!」


 おじいちゃんがじゃがじゃがうるさい。


「じゃが? あ、肉じゃが定食ってよくない!?」

「な? 話、聞いてないだろ?」

「……」


 魔王の謎ツッコミで、おじいちゃんが無言になった。なぜに?


「おまたせしましたぁ。バタチキカレーていしょくです!」


 魔王とおじいちゃんとおしゃべりしていたら、ショコラが新作、バタチキカレー定食を運んできてくれた。

 今日も可愛い、ありがとう!



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