43:魅惑のバタチキカレー

 



 無言でカレーを食べ続ける偽ヒヨルド姿の魔王を眺める。あまりにも無言すぎて、美味しかったのかどうか気になってきた。


「美味しい?」

「……」


 無言で頷いて、手を止めない。

 これはとても好きだったパターンだね。よしよし。ならば、いっぱい食べなさい。


「ワシも食べたい……」

「ミニカレーにする?」

「する!」


 おじいちゃんにミニカレーを渡しつつ、ふとナンの存在を忘れていたなぁと思い出してしまった。


「むおっ……なんだこのまろやかなのにスパイシーなカレーは」

「バタチキカレー」

「バタチキとは何じゃ」


 なるほど、そこから。


 バターチキンカレー。

 それは、魅惑のカレー。


 鶏肉は、おろしニンニク・おろしショウガ・ヨーグルト・カレー粉で作った漬けダレに三〇分ほど漬け込む。

 鍋にたっぷりのバターを入れ玉ねぎをしっかりと炒めたら、さいの目切りにしたトマトと鶏肉を漬けダレごと入れて煮込む。

 

 ここからは好みによりけりだけど、私は辛めのカレー粉を足して、クリームを入れて、更にひと煮立ち。

 ご飯にもパンやナンにも合う、魅惑のバターチキンカレーの出来上がり。


「……作り方をそんなに簡単に言ってええんかの?」

「えー? いいんじゃない?」


 カレーって、何をどれだけ混ぜるかで味がものすごく変わってくるから、同じものを作るのは大変だと思う。前世では、各家庭でオリジナルな作り方があるレベルの料理だったし。

 違うブランドのルウを混ぜるとか、ソースを入れるとか、コーヒー入れるとか、カルダモンなどのスパイスを更に足したりとか。


「自分だけのオリジナルカレーとか、楽しいよ」

「ほぉ。確かに楽しそうじゃ」


 おじいちゃんがワクワクとした顔で、料理はほとんどしたことがなかったが作ってみたくなったと話していたら、カレーを食べ終えた魔王が私をじっと見ていた。


「どしたの?」

「…………俺は、ルヴィの作ったカレーでいい」

「っ――――!」


 真顔でじっと視線を合わせて、低い声で呟かれた。

 ちょっと、ドキッとしてしまった。偽ヒヨルド姿で良かった。


「ありがと。ヒヨルドに告白された気分になっちゃった! あははは!」

「「……」」


 照れ隠しに口を滑らせてしまったら、何故か魔王が目の前から消えた。

 消える直前、一瞬だけ物凄く怒ったような、不機嫌そうな顔が見えた気がする。


「え、あれ? 魔…………ウィル、瞬間移動した?」

「……あちゃぁ。ありゃ、勘違いしとるぞ?」

「え? 何を?」

「お前さんがヒヨルドを好きだと」

「え? 何で?」


 ナマズなおじいちゃんに大きな溜め息を吐かれたあと、そんなことは本人に聞けと言われてしまった。

 聞きたい本人が消えちゃったのに…………。



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