40:平和で、穏やか……?

 



「――――ヴィ、ルヴィ」

「んっ……」

「寝るなら寝室にいけ」

「…………ぅん」


 本を読んでいたらいつの間にか寝ていたみたい。魔王におこされた。

 こしこしと目を擦りつつ、読んでいた本を小脇に抱えて寝室へと向かった。


「ふぁぁぁぅ……おやすみぃぃ」

「ん。良い夢を」


 後ろからついてくる気配があったからフォン・ダン・ショコラだろうと思って、振り返らずに『おやすみ』と言ったら、低い声で返事があった。なんだ魔王かと思っていると、後頭部をゆっくりと撫でられた。


「おやすみ、ルヴィ」


 そんな魔王の挨拶を聞きながら、寝室のドアをバタンと閉め、ベッドにダイブ。夢現から夢の世界へと沈んでいった。


 


 このときは全く不思議に思っていなかったのだけど、朝起きて良く良く思い出したら、明らかに違和感だらけだった。


「何なの……ってか、どういう状況!?」

「ん? おはよう」

「あ、おはようございます」


 ダイニングでまたもや優雅に座る魔王を発見。

 足を組んで、コーヒーを飲みながら、何やら書類に記入している。


「何……してるんですか?」

「仕事」


 何故に。

 何のために。


 いつから!?

 まさか、昨日からずっと居たとか?


「いや。帰って魔王城で寝た」


 どうやら、あのあと普通に魔王城に戻って自分のベッドで寝たらしい。そして朝起きて魔王城の食堂で朝ご飯を食べたら……あまり美味しくなかったそうな。


「口直し」

「はぁぁ。つくるつくる」


 カリカリベーコンとスクランブルエッグ、レタスとブロッコリーのサラダ、食パンを焼いて、コーンスープ。

 至って普通の朝食を作った。


「ん。うまい」

「よございました」

「ルヴィ、今日の予定は?」

「ないけど?」


 今日は特に何をするとも決めていなくて、たまには家でのんびりしておこうかと思っていた。


「ん」


 魔王は普通に朝食を食べて、普通にダイニングのテーブルで書類の記入を再開した。


 ――――この人、何してんだろ?


 不思議には思ったものの、突っ込むのも面倒なので、放置することにした。

 

「魔王、私リビングに行くけど?」

「ん」


 魔王は書類をストレージに直すと、コーヒーカップとなんとなしに出したお茶請けのお菓子のお皿を持って、私のあとに続いた。

 どうやら魔王もリビングに移動するらしい。




 リビングには、ローテーブルと三人掛けのソファひとつ、一人掛けのソファがふたつある。

 部屋から持ってきた本をローテーブルに置き、三人掛けソファにダイブ。

 うつ伏せて寝転がって、本を読み始める。すると毎回必ずフォン・ダン・ショコラが足元に這い上がって来るので足置きにする。もふもふでなかなかに置き心地がいいのよね。


 魔王はそんな私をちらりと見て、ローテーブルに書類を出すと、また仕事らしき事を始めた。


 ――――サクッ。ペラッ。


「魔王、紅茶取ってくるけど、飲むー? コーヒーがいい?」

「飲む。同じものでいい」

「へーい」


 ふと一瞬、私たちは何してんだ? とか思ったけど、まあ平和で穏やかだし、いいか! とキッチンに紅茶を作りに行った。



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