39:適当にロコモコ。

 



 今週も頑張ったなぁとお風呂から上がって、髪の毛を乾かしながらダイニングに向かう。

 おじいちゃんは魔具の開発が終わったらしいし、サキュバスのお姉様たちも仕事が捗ったって言っていた。

 フォン・ダン・ショコラも本当によく働いてくれている。

 なかなかに良い一週間だった。


「夜ご飯は何を食べようかなぁ?」

「「わふぅん?」」


 ただ独り言ちただけなのに……。


「なんでもいい」

「……」


 ダイニングテーブルで優雅にコーヒーを飲みながら本を読む銀髪イケメン。

 一瞬、どこか違う場所にでも転移してしまったかと思うよね。どう見ても私の家だけど、どう見てもダイニングだけど。

 あまりにも当たり前のようにいる魔王のせいで、思考回路が停止しかけた。


「何してるんです?」

「営業時間に間に合わなかった」

「……」


 だからダイニングで待っていた、ということらしい。

 理由は分かったが、意味が分からん。

 取り敢えず、お腹が減ったらしい。


「適当なものになりますよ? お金も取りますよ?」

「ん」


 仕方ないなぁと思いつつ、髪の毛をササッとまとめた。

 貯蔵庫の中を見てメニュー決定。


 レタスを適当にちぎり、盛々のご飯の上にどさっと乗せて、マヨネーズを適当にビーム。前世のせいでなのか、なんとなくビームと言ってしまう。

 その上にハンバーグを並べるんだけど、魔王のは三個にしとこうかな。私は一個で充分。

 トマトソースをたっぷりと掛ける。これをケチったらいけない。

 フライパンに油を引き、目玉焼きを三個作って、一個は私に。二個は魔王に。

 スプーンを添えれば、適当ロコモコ丼定食の出来上がり。


 自分のご飯も時間のあるときにストックで用意しているので、疲れたときとかは楽に素早く作れてとてもいい。

 ハンバーグのストック作っててほんと良かった。


「おまたせー」

「ん。いい匂いがする」

「ロコモコ丼です。野菜もお肉もソースも卵も気にせずスプーンでガッと食べると美味しいですよ」


 魔王と二人、向かい合って座り、いただきますをして食べる。一人暮らしのはずなんだけどなぁ?と不思議な気分にはなるけど、スルーでいいか。


 私のは小盛りくらい、魔王のは超特盛くらいだったのに、魔王が食べ終わる方が早かった。

 

「美味かった。レタスと米とマヨネーズはどうなんだと思ったが、合うな。レタスと肉とソースと米。なんとも言えない奇跡の組み合わせだった。半熟の目玉焼きとマヨネーズが全てを包み込んでいた」


 魔王も美味しいものを食べると饒舌になるらしい。

 もしや魔族はみんなそんな感じなのかな?

 そして今日もシンクに食器を下げてくれた。私の分まで。


「魔王って、いい旦那さんになりそうですね。あ、デザートにクッキー食べま――――」

「食べる」


 言い終わる前に返事された。

 お湯を沸かしてホットミルクティーを作り、貯蔵庫からアイスボックスクッキーを持ってきて、テーブルの真ん中へ。

 



 ――――ペラッ。サクッ。


 本を捲る音とクッキーを咀嚼する音。

 静かな空間に響くのは、心地よい雑音のみ。


 ダイニングでおやつを食べつつ、読みかけの本の続きを読む。なんとも言えないのんびりとした時間。


「………………ところで、魔王」

「ん?」

「いつまでいるの?」

「…………ルヴィが寝るなら帰る」

「ふぅん」


 まぁ、もうちょっとだけ、本の続きを読もうかな。



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