35:魔王の名前……え?

 



 魔王が夕食を食べ終えて、またもやスッと瞬間移動で帰っていった。

 また来る。とか言ってたから、また来るんだろうけど……。

 シンクの丼を洗いながら、なんとなく今日の変装した魔王を思い出す。


 黒髪ショートヘアーで、長身。顔はそのまんまのどえらいイケメン。

 あと名前で呼べって言ったのは面白かった。…………名前、忘れたけど。

 …………忘れたまんまはヤバいよね? 流石に失礼だよね? 


「ショコラたん、ちょっと人型になって?」


 足元にヘチョリと座っていたフォン・ダン・ショコラにお願いすると、ぽふんと変身してくれた。


「なぁに?」


 ふわふわのお耳をピルピル動かしながら小首を傾げて、ショコラが見上げてくる。くっ……抱きしめたい!


「あのね、魔王の名前って覚えてる?」

「まおうさま? うぃるふれっどさまだよー?」

「それだぁぁぁ!」


 ウィルだ、ウィル!


 名前を思い出せてスッキリしていたら、ショコラがシンクの中を背伸びして覗き込みながら、ソワソワ。


「しょこら、おてつだいする!」

「お、ありがと。じゃあ、お皿とコップを拭いてくれる?」

「はーい」


 にこにこ笑顔でお手伝いしてくれるショコラ、プライスレス。

 今日はいっぱい頑張ってくれたし、夜のデザートで骨をあげよう。たしか貯蔵庫に入れてたはず。


 ケルベロス型に戻ったフォン・ダン・ショコラが三頭とも楽しそうに骨を噛み噛みしていた。

 その姿を眺めつつ、ダイニングテーブルで前世のレシピを思い出しながらメモ。

 

 貯蔵庫が広がったこと、フォン・ダン・ショコラがお手伝いしてくれるようになったこと、それらを鑑みてメニューを増やすか、日替わり定食みたいなのを作るか、悩み悩み。


「うーん」


 日替わりで、ちょっとお手頃価格みたいにするのはありよね?

 でもあれって、店員の負担を減らすためと、薄利多売で集客の役割よね?

 いろんなメニューがバラバラに来るより、同じものを同時に何個か作るほうが楽だもの。

 大量仕入れで原価も少し下がるし。フードロスになりにくいし。


「うーん?」


 でも、ウチはそもそもが、ほぼ全ストック制だし。日替わりは保留かなぁ。

 いやぁ、ほんと貯蔵庫って便利ね。

 また明日から、ストック作りを頑張らないと。

 大きいお鍋も買い足したし、保管容器も買い足した。もりもりと美味しいご飯を作って、魔王の胃袋陥落させるわよ!

 

「やるぞー! おーっ!」

「「ワォーン!」」






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