22:お届けに――――え、ここって!?

 



 偽ヒヨルドが帰って直ぐに、フォン・ダン・ショコラがカウンターの下でワフワフと吠え出した。

 何かなと近づいてみると、カウンターに見慣れないゴツい指輪。

 

 指輪――――!?


 いつから?

 昨日は絶対になかった。


 二センチくらいある、いぶし銀色のゴツい指輪。

 真ん中に大きくてつるんとした透明の石が付いていて、その周りにや内側にまでとても細かな細工で模様が描かれている。

 サイズは私の親指より太いから男性もの。


 おじいちゃんは絶対に着けなさそう。

 ということは必然的に偽ヒヨルドになる。


「偽ヒヨルドの?」

「「ワフッ!」」


 さて、どうしたものか。




 一応、夜に来店したおじいちゃんに見せると、誰にも見せても渡してもだめだと言われた。


「本物の方のヒヨルドにも?」

「うむむ……微妙じゃな」


 微妙、なんだ?

 よくわからない。でも詮索はしないほうが身のためらしくて、結局は偽ヒヨルドが次来るまで大切に保管することになった。

 本物のヒヨルドが来たら『忘れ物を預かっている』とだけは伝えようと思っていたけれど、そのヒヨルドさえも一週間来なかった。


「どーしよ、コレ。びっくりするくらい大切なものらしいんだよねぇ。届けるにも何処にいるかとか知らないし。フォン・ダン・ショコラは知ってる?」

「「ワフッ!」」


 休みの朝、居住スペースのテーブルで、ポケットから出した指輪をクルクルと回しつつ、独り言ちていた。

 フォン・ダン・ショコラに話しかけたら、まさかの知っているような素振で玄関に向かう。


「え? 知ってるの?」

「「ワッフゥー!」」




 フォン・ダン・ショコラに先導されて、高速移動馬車乗り場に来た。馬車に乗り、王都内を駈ける。

 初めて乗ったけど、前世で言うジェットコースターより早く、でも安心して乗ってはいられた。


「「バフッ!」」

「おう、わかった。次な」


 どうやら次で降りるらしい。そして御者さんもフォン・ダン・ショコラの言っていることがわかるらしい。

 ちょっと本気で羨ましいとか、思ってないもん。


「…………ここ?」

「「バフゥ!」」

「ここ、王城って言わない?」

「「ばうぅん!」」


 この反応から見るに、王城で間違いないらしい。

 大きくて厳つくて真っ黒な門には指輪の内側にあった模様とそっくりな模様が彫られていた。

 おじいちゃんの言うように、本当に大切なものみたいなのよね。先ずはどうしたらいいんだろう?

 偽ヒヨルドを呼び出すためには?

 先ずはヒヨルドから?


「あのぉ」

「……なんでしょう?」


 ライオン頭のものすごく背が高くてムキムキの門兵さんに、恐る恐る話しかけてみた。

 

「たぶんこちらに白いウサギの耳で――――」


 ヒヨルドの見た目と雰囲気と名前を伝えると、三人四人と門兵さんが集まってきてしまった。

 全員が肉食獣の頭で、チーター、トラ、ワニまでもいる。流石にちょっと怖い。


「ヒヨルド…………魔具庁の長官の?」


 ――――マグ、チョーカン?



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