20:まさかのまさか。

 



 営業時間前に突撃してきた偽ヒヨルドに、謎な命令をされたので、無茶を承知で条件を出してみた。

 かき氷用の氷を作ってくれ、と。


「あぁ、いいぞ」

「「……」」


 まさかの二つ返事で、私もおじいちゃんもポカーンとなってしまった。


 普通さ? なんでだとか、何に使うのかとか、聞かない? あ、聞かないの。え? 私が作るって言ってるから、美味しいものだろう? 食べさせろ。あ、はい。いや、まぁ、美味しいものですけどね。

 

「…………へい、ぜひ食べてください。はい」

「大きさは?」

「あ、このくらいの円柱型で」

「ん」


 かき氷器の氷を設置する場所を見せると、水もないところからピッキーンと横縦三〇センチの円柱氷を掌に出した。瞬く間に。


「いや流石に早すぎません? あと、それ食用?」

「ブフォォ」

 

 なぜかナマズなおじいちゃんが吹き出して笑い出した。


「流石に、この子じゃなければ正体がバレますぞ」

「む? 気を付ける」

「正体?」

「「気にするな」」


 ステレオで気にするな、早くかき氷たるものを作れ、と言われてしまった。


 ――――何なの? 

 

 氷を設置して、カップを排出口にスタンバイ、とろふわボタンをポチッとな。

 シャリシャリと優しい削り音を出しながら、ふわふわの白っぽい氷がぽふりぽふりとカップに溜まっていく。

 こういうのって、ずっと見ていられるなぁ、って思うのは私だけなのかな?


「何だこれは?」

「「かき氷!」」


 私とおじいちゃんはテンション爆上がり。偽ヒヨルドはキョトン。「端から雪を出せば良くないか?」とか空気が全く読めていないことを言う。

 本物のヒヨルドだったら、拳骨ものだからね!


「こうやって削るのがいいんですー」

「ほれ、もういいじゃろ、早く!」


 かき氷が程よいドーム型になったので、苺シロップをたっぷりと掛けて、その上にクリームをちょこん。


 ――――うん、可愛い!


 先ずはおじいちゃんに。


「こっ、これがっ………………んっっっっまいっ!」

「早くよこせ」

「はいはいはい」


 おじいちゃんのを作っている間に偽ヒヨルドの分は削っていた。シロップを掛ければすぐできるのに、それさえも待てない様子だった。

 仕事が忙しいとかなんとか言ってたから時間がないのかと思った、ただ食べたいだけなそうな。

 なんやねん!

 似非臭い関西弁にもなるってもんよ。


「なに味にします?」

「………………桃。苺はヨルゲンのをもらう」

「ヨルゲン?」

「ワシー」


 おじいちゃんはヨルゲンと言うらしい。

 顔見知りだったの? と聞いたけど二人ともに無視された。酷くない? 泣くよ?


「詮索はするな」

「チッ。はーい」

「令嬢が舌打ちするでない!」

「ふぁーい」


 二人に怒られた。しどい。泣くよ?



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