19:絶対に必要なものを完全に忘れていた。

 



 かき氷のシロップ作りは順調に終わった、ヒヨルドのおかげで格段に早く。

 ご飯は食べていくか聞くと、張り切っていると言われたので、メニューから好きなものを選んでもらった。


「くあーっ! オムライスもめっちゃうめぇじゃん!」

「でしょでしょ!」


 個人的にはクリームシチューを掛けるのがおすすめ。


「そういうのは先に言ってくれよ!」

「あははは!」


 ごめんごめんと謝りながクリームシチューを掛けてあげると、ヒヨルドがにこにこと笑いながらペロリと完食した。

 こういう風に美味しいと言われながらご飯食べてもらえるのって、なんか幸せ。

 前世は一人暮らしで黙々と作って黙々と食べてたからかなぁ?




 翌日、開店前からおじいちゃんが店に来たらしい。そして、居住スペースの方のチャイムを連打された。


「おふぁよぉございます」

「なんじゃ、まだ寝とったんか」

「まだ三時間前ですもん」


 ほれ、と見せられたのは、大きな箱。

 はて? 頭に大きなクエスチョンマークを乗せて首を傾げると、ガハハハと笑われてしまった。


「出来たぞ! はよ着替えるんじゃ。ほんで店に入れてくれ」

「あああぁぁぁっ! どーぞどーぞ!」


 慌てて玄関の中に招き入れ、店への通用口を指した。

 なぜか危機管理がなっとらん! とか怒られた。いやほんと、なぜに。




「うぅわぁぁ!」


 それは前世で見た、完全自動の氷を削る機械。

 紛うことなき、かき氷器!


「ほれ、早く氷を設置してみるんじゃ」

「――――!?」

「なんじゃその顔は。ほれ、はよぉ」


 なんてことだ。なんてことなんだ!

 完全に失念していた。驚くほどに、シロップ作りに熱中してた。


「っ……ない。ないの。どこにも、ないのっ!」

「は?」

「氷、忘れてたの」

「はぁぁぁ!? あんだけ熱弁しといて、忘れ…………!?」

「おじいちゃん、氷魔法とか、使える?」


 出来るか! と拳骨されてしまった。これは本当に仕方がないので甘んじて受けておかないと。

 めっちゃ痛いけど!

 あんまりにも痛くて床に蹲っていたら、目の前にヒヨルドが立っていた。


「ヒーヨールードォォォォォオ!」


 私の救世主! 白ウサ耳の可愛い可愛いモヤシ!

 感動のあまりに、飛び上って抱きついた。身長差のせいでヒヨルドの頭を胸元で抱きしめちゃってるけど、子供だしまぁいいか。


「む…………どうした?」


 ヒヨルドの口から、妙に低い声が聞こえる。

 私の胸元でモゴモゴと「とりあえず解放しろ」とか聞こえる。


「…………偽ヒヨルド?」

「あぁ」


 偽ヒヨルドって呼ばれて返事するのもどうかと思うけど。とりあえず、人にツッコミは入れれないことをしでかしているなと反省しつつ、偽ヒヨルドを解放した。


「ヒヨルドからオムライスの自慢話をされた。今日は昼から忙しい。持ち帰りをさせろ」


 驚くほどに一方的に命令された。いやまぁ、命令だから一方的なんだろうけど。


「氷を作ってくれたらいいよ!」


 良いカモ発見!!

 


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