18:魔王の存在を思い出した。




 通りがかったひょろモヤシなヒヨルドを掴まえてニヘニヘと笑っていたら、めちゃくちゃ苦い顔をされた。


「アンタ、魔王より酷い笑い顔してるぞ」


 ――――お?


 そういえば、あのカッコイイ魔王がいたんだった、この世界。

 銀髪ストレートロン毛で、女子か!ってくらいのバシバシまつ毛、側頭部に山羊だか羊だかのくりんと丸まった角が生えた人。

 本編にはあまり関わりがなかったけど、ヒロイン(妹)が年一である魔界との協定後の夜会みたいなのに参加してたなぁ。それにチラッと出てて、『いや、そのイケメンの出番増やしてよ!!』とか思ってたっけなぁ。


「一度くらい、魔王をナマで見てみたいなぁ」

「…………まぁ……普通は、見れないな」

「だよねぇ。ヒヨルドは見たことある?」

「……それよりもっ! 何するのか説明しろよぉ、マジで!」


 ごめんごめんと笑いながら、作業の説明をした。と言っても、結局は、冷やすだけなんだけどね。


「ちょっとぉ、偽ヒヨルドみたいに一定放出で頑張ってよ!」

「無茶言うな! 魔……あの人レベルとか無理だから!」

「えーっ? 偽ヒヨルドってやっぱり凄い人なの? おじいちゃんも言ってたのよねぇ。『探らぬが身のためじゃ』って」


 おじいちゃんって誰だって言うから、ナマズ顔の魔具師だと説明したら、なぜか軽くキレられた。


「あんのジジイ! 俺らのは断っといて、コイツの菓子作りは手伝うのかよ!」

「知り合いなの?」

「知り合いっつーか、この半月ほど依頼を受け付けて貰えねぇの! ってか、その話だと魔……上司はあのジジイに会ったことあんだな?」


 会ったことがあるというか、たまたま隣席気味になっただけ、だったと思う。あのあとも偽ヒヨルドは何回か来たけど、おじいちゃんと同じタイミングの時はあったかなぁ? 記憶にないや。


「んあー、まー、そうだよな。帰ったらドヤそう」

「上司なのにドヤすの?」

「あったりまえだろうが!」


 お腹の底から言われた。当たり前らしい。上司が作れと命令して、ソレを叶えられる技術を持っているのがおじいちゃんくらいらしい。


「ほへぇ。大変ね。がんばー」

「くそっ、他人事だな!」


 どうあがいても他人事だし、お仕事なら口出しはしないほうが吉だし。応援はしていると伝えると、ヒヨルドが大きな溜め息を吐きながらも「ありがとな」と力なく笑った。



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