13:初めて――――。
お客さんたちから魔族の常識を聞きつつ、接客。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「三人だ」
「はーい、こちらにどーぞ!」
なんとなく不機嫌そうな雰囲気の男性三名様をテーブル席に案内した。ちょっと高そうなスーツを着ている。大衆食堂には来そうにない見た目だなぁ、なんて考えていた。
「何だここは!? 一人一人にメニューを渡さないのか!」
「壁に書かれているものを読めってことだろう? バカにしている!」
「全品五〇〇ウパだと聞いてきたら……詐欺じゃないか!」
席に着いた途端、急に大きい声でワーワーと叫ばれてしまった。
「店内に犬――――い……ぬ? ケルベロス!? どどど動物を店内に入れるなどっ!」
そんなこと言われても、獣人系の人とかいるし……店内は良くないかな? あれ? ドッグカフェ的な感じであり寄りにしてたけど、もしかして駄目なパターン?
「「ググルルルル、ヴヴヴ!」」
「あっ……」
店の入り口でプスプスと寝ていたフォン・ダン・ショコラが、ムクッと起き上がって唸りながら走り出した。
「「グォワゥッ!」」
「「ヒィッ!」」
そして、何やらクレーム盛々な三名様の足元に立つと、力いっぱいに吠えた。三頭とも、激しく牙を剥いて。
「え、あ……またおこしくださーい……?」
バタバタと出て行ったけど、何だったんだろ?
とりあえず、ここに来て初めてフォン・ダン・ショコラが役に立った気がする。
タダ飯ぐらいの犬じゃなかったんだね。
「いくら子供とはいえ、ケルベロスの扱いが可哀想過ぎる!」
なぜか、店内にいたお客さん全員にフォン・ダン・ショコラが慰められていた。
納得いかない。本当に本当に本当に、ずっと入り口で寝てるか、エサをねだるか、ワフワフ鳴くかぐらいだし。
「いやいや、かなりの安全確保になっているからね?」
ケルベロス一体いるだけで、泥棒はおろか、ああいったヤカラも排除出来るそう。しかし、一般的に手懐けることは難しい。なので従魔師はかなり貴重なのだとか。
――――従魔師?
新たな単語と職業のせいで頭の上にハテナが出そう。
とりあえず、覚えることは一つで良さそう。
魔族の常識③ケルベロスは、安心安全なセ○ムと同等。
「……えっ、そんなことあったのかよ」
「そーなの。何だったんだろアレ?」
「あー……まぁ、これだけ繁盛してればなぁ」
営業開始して一週間、久しぶりに本物のヒヨルドが来た。上司の無茶振りな仕事をこなしていたらしい。
上司が迷惑かけてごめんな、と謝られた。
いや、本当に心臓に悪いよアレ! マジで二度とやめてよね!
本気で怒った私は悪くないと思う。
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