12:ケルベロスとは。

 



 ――――前世かぁ。


 スーパーの店員、だった気がする。

 ハッキリとは覚えてないけれど、発注したり、品出ししたりして店内を走り回って、お昼は手作りのお弁当を食べて。

 夜ご飯には何を食べるか、ネットで好みのコミックを発掘するのが楽しみ。


「彼氏、いたっけ?」

「「わふぅ?」」

「……ミリも記憶がないわ」


 これは、いなかったな。確実にいなかったパターンだな。ちえっ。

 まぁ、いいけど。


 今生での目標は、『魔界の定食屋でウッハウハ!』

 程よい疲労とそこそこに余裕のある収入、美味しいご飯が食べられて、毎日楽しく生きること。

 貴族みたいな雁字搦めの生活なんて二度と嫌。


「フォン・ダン・ショコラ、毎日楽しく働こうね!」

「「わっふぅ!」」

「まぁ、フォン・ダン・ショコラは何もしてないけど」


 ケタケタ笑いつつそう言うと、三頭ともガーンといった顔をして、ぺしょりと横座りになった。

 そういえば、前世で横座りするフレンチブルドッグをネットで良く見てたなぁ。可愛かったなぁ。

 ケルベロスは……まあまあ可愛いかなぁ。

 

「ねえ、それぞれ思考は別なのに、身体はひとつじゃない? フォンが右に行きたくて、ショコラは左に行きたい場合、どうしてるの?」

「「わふぅ?」」


 三頭ともに首を傾げられた。

 前世ではペットと明確な意思疎通が出来ないのは当たり前だった。この世界では魔族は魔力を使って意思疎通が出来るのが当たり前。


「いいなぁ、魔法とか魔力。使ってみたいなぁ」

「「わふぅー!」」


 なにかやる気に満ち溢れている感じの吠え方をされたけど、ケルベロスって魔法使えるのかな?

 明日誰かに聞いてみよ。覚えてたら。


「「わっふわっふぅぅ!」」

「もぉ、何話してるかわかんないんだってば! 明日ね、明日!」

「「わふぅ……」」


 なぜかしょんぼりされた。




「――――へぇ! 魔法を使える子もいるんですね!」

「あぁ、ただ、まぁ…………ケルベロスは、なぁ?」

「いやまぁ、ケルベロスはなぁ?」


 土木作業員っぽいおじさん二人が、唐揚げをもりもりと食べつつ、顔を見合わせて苦笑い。何なの?


「いやぁ……ケルベロスは毒吐くからなぁ」

「はぁっ!?」


 ――――毒っ!? 毒を吐くの!?


 定食屋にいるペットが、毒持ち。

 え? それって大丈夫なのって聞いたら、更に苦笑いされた。そこそこに微妙な気持ちらしい。


「だけどまだ小さいから、セーフかなぁ?」

「そういう判断基準!?」


 仔ケルベロスの場合、まだ致死毒ではないから、らしい。


 魔族の常識②仔ケルベロスの毒は、致死毒ではない。


「その常識、いるの?」

「いるだろ!」

「いるいる!」


 他にも二人のお客さんがいたけれど、全員が基礎知識だと言いはった。本当かなぁ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る