11:営業終了。
営業開始一時間で四人のお客さんが来てくれている。なかなかに順調なんじゃない?
下げたお皿を洗っていたら、次のお客さんが来店した。
頭にハチマキみたいなのを着けた、厳つめ土木作業員風の魔族だった。
ナマズおじいちゃんにおすすめされたらしい。早速宣伝してくれたんだ? 有り難い。
「唐揚げ薦められたんだけどさ、辛いカレーっての? 俺はそっちのほうが気になるんだよな」
「カレーにはトッピングができますよ。ミニ唐揚げ二個で一〇〇ウパ!」
トッピングは色々と用意した。
ミニ唐揚げはもちろん、コロッケ一個だったり、ミニハンバーグ、目玉焼き、チーズ、などなど、各一〇〇ウパ。そう伝えると、土木作業員なお客さんの目がギラリと光った。
「唐揚げのトッピング追加でっ!」
「はーい、かしこまりました」
土木なお客さんはカウンターの中央にドカリと座り、まだかといった雰囲気でキッチンを覗き込んでくる。
急いで盛り付けて出した瞬間と、彼がスプーンを握った瞬間は同じだった。そして、その後も凄かった。カレーが消えていくのだ、恐ろしいほどの早さで。
昔『カレーは飲み物です』ってどこかで聞いたなぁなんて、ぽやんと考えているうちに、全て食べ終わっていた。
「…………フハァァァ」
大きくて長い溜め息。
これはどっちの意味なんだろう?
「美味かった。こんなに美味いもの、久しぶりに食べた」
「わぁ、良かったです!」
ホッとしたとともに、心がポワンと暖かくなった。
美味しかったという言葉って、こんなにも嬉しいものなんだね。
その後、何人ものお客さんが来店してくれた。
〇〇から聞いた、〇〇におすすめされた、なんて話しながら。
少し暇そうだったら、夕方手前くらいの二時間を休憩時間にしようかと思っていた。ついでに仕込みとか出来たらいいなぁとかあわよくば感もありつつで。
ところがどっこい、だった。
ありがたいことに、長めの休憩時間を取る暇も無いほどに忙しかったのだ。
閉店予定の二〇時。
定食屋だし、一人での営業なのでこの時間にしていたけど、正解だった。
「つ、つかれたぁぁぁぁ!」
「「わふぅぅぅ」」
夕方、まさかのお昼に来たお客さんのリピートもあって、売上は五一八〇〇ウパ。
原価ぎりぎりの設定だったけど、かなりいい金額にはなった。
明日からは定価に戻すけど、どれだけのお客さんが固定さんになってくれるかな? なんてドキドキワクワクしつつ、最後の一踏ん張り。
お皿を洗って、床掃除。
「フォン・ダン・ショコラ! 家に戻るよー」
「「わふぅん!」」
居住スペースでフォン・ダン・ショコラと一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドにダイブ。
お嬢様をしていた頃には一切感じなかった、肉体労働での疲労困憊。それなのに、とても懐かしい感覚。
そういえば、前世の私って何をしてたんだっけ――――?
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