10:正体を探ったらダメらしい。

 



 ザクザクハーモーニーを聞きながらボーッとしていたら、三人目のお客さんが入ってきた。

 外の看板はマジなのか? とのことだった。

 入口横で寝そべっているフォン・ダン・ショコラに軽くびっくりしていたけど、ゴロゴロしてるだけのペットなので無視でお願いします。


「はーい。マジですよー」

「おい! マジだってよ! 食ってみようぜ!」


 店外に向かってそう言うと、四人目のお客さんを連れてきてくれた。背中に小さな黒い羽根をつけた……生やした?男女の二人組み。テーブルに案内すると、怪訝な顔をされてしまった。


「ねぇ、本当に五〇〇ウパなの? 変な食材使ってない?」

「大丈夫ですよー。オープン初日の特別価格なだけです」


 ニコッと笑ってそう答えると、女性は少しだけ気まずそうに「ならいいわ」と返事した。反対に男性はニヤニヤしている。顔がなんとなく似ているから兄妹か姉弟かなぁ?


 男性はハンバーグ定食、女性はコロッケ定食を注文。

 どっちにもキャベツの千切りを盛り盛りしつつ、ふと思う。この世界にはお箸も流通している。コミックの作者のおかげでキャベツの千切りが食べやすいなぁと。

 だけど、フォークとナイフ、お箸の三つをお盆に乗せる羽目にはなってるけど。みんなどっち使うかわかんないからね。


「……へぇ!」

「わぁ! いい匂いがする……」


 定食を運ぶと二人とも笑顔になった。はんぶんこしようか? なんて話している。

 うんうん、二人で来るとそういうのも出来るからいいよね。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 二人に挨拶してキッチンに戻ると、偽ヒヨルドが完食して待っていた。


「美味かった。また来る」


 そう言ってカウンターに一〇〇〇ウパを置くと、また瞬間移動で消えて行った。


「転移魔法じゃと!?」

「珍しいんですか?」


 ナマズおじいちゃんがびっくりしていたので聞いてみると、かなりの魔力保持者じゃないと、おいそれと使えるものじゃないとのことだった。

 見た目でも横にいても分からなかったが、物凄い御仁なんじゃなと感心していた。


「偽ヒヨルド、何者なんだろ……」

「偽?」


 ポロッと口が滑ったら、おじいちゃんに拾われてしまった。

 変装して手伝ってくれた話をしたら、おじいちゃんが難しい顔になり、「ふむ……これは探らぬが身のためじゃ。嬢ちゃんも探らんようにな」とか言い出した。謎すぎる。




「ふぅ。美味かった! こんなに美味い飯は初めてだったよ。ごちそうさん!」


 おじいちゃんから五〇〇ウパを受け取り、入り口でお見送り。去り際にもうちょっと堂々と宣伝しろ、知り合いには声をかけてやるからな! とかワーワー言いながら足早に歩いて行った。


「美味かったぁぁぁぁ!」

「うん。凄く美味しかったわね」

 

 明日も営業しているのか聞かれたので、「もちろん!」と笑顔で答えた。また食べに来てくれるらしい。

 定食屋、なかなか順調な滑り出しみたい!



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