14:また来た。

 



 ヒヨルドが来た翌日、またヒヨルドが来た。


「今日も来たの? いらっしゃい」

「今日も?」


 声が低い。あ、これ、偽ヒヨルドだわ。


「そっちかーい!」


 つい、ツッコミ入れちゃうよね。私悪くないよね? …………ね?


「カレーと唐揚げ単品」

「はーい!」


 フル無視でカレーと唐揚げを頼まれた。カレーはやっぱり外せないけど、唐揚げも捨てれなかったらしい。

 ザックザクと偽ヒヨルドが無言で食べているのを見ていると、何だか笑みが溢れてくる。お仕事は何をしてるかわからないけど、凄く大変なんだろうなぁ。本物のヒヨルドがヘトヘトだったし。


「やほー! オムライス定食おねがーい」

「はーい!」


 最近毎日のように来てくれる、近所の洋服屋さんのお姉さんはオムライスに大ハマリ。

 対面キッチンで卵を焼くのを見るのが気に入ってるんだとか。

 熱したフライパンにバターを引いて、卵液をドバーッ。ジュワジュワぷくぷくと卵が少しだけ騒ぎ出したら中火にする。

 菜箸でフライパンに広がった卵の向こう側とこちら側を、フライパンの中心にギュッと寄せてつまむ。

 すると、少しだけ焼き固まった部分がリボンのような形になる。けれど、まだ焼けてない部分はジュワーっとフライパンの空いた部分に流れ出す。これでいい。

 卵を中心でつまんだままフライパンを九〇度横回転させると、卵にドレープが寄ったようにフライパンの上を滑る。そのまま緩い卵がほんの少しだけ焼き固まるのを待つ。

 そうしてもう一回、フライパンを九〇度横回転させる。

 表面はまだしっとりジュクッとしているけれど、これで大丈夫。

 ゆっくりとチキンライスの上に移動させて、シュルリ。

 ドレスオムライスの出来上がり。


「きゃー! いつ見ても上手よねぇ。凄く可愛いぃぃ!」

「あはは。ありがとうございます」


 お姉さんに渡すと、いつも大喜びしてくれる。だから、こっちも自然と笑顔になれる。

 こういうとき、定食屋を始めて良かったなぁと思える。


 ちなみに、オムライスはしっかり焼きの玉子シートタイプと、オムレツを切り開くタンポポタイプと、このドレスオムライスタイプの三種類の中から選んでもらっている。

 ビーフシチュー、クリームシチュー、カレーなどをソースにする場合は、追加で三〇〇ウパ。しっかりお金取ります!


「…………オムライス?」


 偽ヒヨルドがお姉さんに渡したオムライスをガン見している。物凄く、ガン見している。

 見た目はひょろモヤシなガキンチョにじっと見られているからか、お姉さんが怪訝な顔になってる。


「次はオムライスにしてみます? カレーも掛けられますよ」

「ん……する」


 こくんと頷く姿は見た目とリンクしててちょっとだけ可愛かった。

 偽ヒヨルド、本当はどんな姿をしてるんだろ?



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