8:偽ヒヨルド。
偽ヒヨルドがカレーを黙々と食べる姿を見つめる。
食べ方が滅茶苦茶お上品。
あと、ヒヨルドの倍食べた。
どうしよう。これ、ストック作り三周目のフラグなの?
「ん……なるほど」
何がどう『なるほど』なのか分からないけれど、美味しかったらしいということだけは分かった。
「いつから店を開く?」
「えー? ストック作りは、これで終わろうと思ってましたけど……みんなこんなに食べるんですか?」
偽ヒヨルドの態度がデカい。からなのか、何なのか、つい丁寧に話してしまう。謎い。
「……魔力の減り方にも寄る」
なぜかプイッと顔を背けられてしまった。ちょっと耳が赤い気がする。あれか、食べすぎてたのか!
なんだ、可愛いじゃんよ、偽ヒヨルド!
「そうですねぇ。明日はお休みして、明後日から営業開始にします」
「ん……また来る」
偽ヒヨルドはそう言うと、パシュンと消えてしまった。目の前から。
「は? え? 瞬間移動?」
「「ワフッ!」」
なぜかフォン・ダン・ショコラがドヤ顔をしている謎。
初日の営業で食材の減り方の感覚を掴んでから、三周目のストック作りをすることに決めた。
「ということで、今日はお休みにしてちょっくら近所を食べ歩きしてくるから」
「「バフゥゥ! バウッ!」」
「連れていきませんっ」
フォン・ダン・ショコラがついてくるっぽいことをワーワー言ってるけど、無視無視。
本物のヒヨルドの方に教えてもらった食べ物屋さんの一軒目に向かうと、結構人が入っていた。
「いらっしゃいませー、こちらのお席にどうぞ」
元の世界で言うところのイタリアン的なお店。
めちゃんこお洒落で、コースが何種類もあった。
ここ、完全にお金持ちが通う店じゃん!
料理は申し分なく美味しかった。
この世界の実家で食べてたような料理たちだった。
二軒目、いわゆるバル的な洋風の大衆居酒屋。
でもやっぱりなんだか高級感は漂う。
そしてまたもや申し分のない美味しさ。
三軒目。
分かってた。こうなるって分かってた。
ドアマンに恭しく礼をされ中に入ると、ホールの真ん中にグランドピアノっぽいのがドーン。
全身緑色で髪の毛から葉っぱが生えた美しい魔族の女性が、ゆったりとピアノを弾いている。
申し訳ないけれど、ここの前に二軒でガッツリ食べてしまったので、デザートとドリンクのみ頼んだ。
デザートは、やっぱり貴族が食べるようなものだった。
どの店舗も参考になったような、ならなかったような。
ヒヨルド、いきつけって言ってたけど、マジで?
ヒヨルドの私生活が地味に気になってしまった。
「ただいまぁ」
「「ワッフゥゥゥ!」」
居住スペースの玄関から入ってすぐ、フォン・ダン・ショコラに体当たりされた。口を開けてハッハッと息をしながら、うるんだ瞳で見つめてくる。
残念だが、お土産なんてない。そう伝えるとしょんぼりしつつ餌入れの前に座った。
餌は食べるのか。
「そういえば、宣伝とかしてなかったなぁ。まー、とりあえず、明日開店してみて考えよ」
翌日の夜、私は『計画的にしましょう』という言葉をこれでもかというほどに実感するのだが、このときのアフォい私はまだ知らない。
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