第13話 現実的な下心

「ジェイって王宮勤めの文官とかその子息達とどの程度顔を合わせてるんだ?」

商業ギルドでの依頼バイトへ最初に行ってから数日後の休息日に、私は探索者ギルドへ向かいながらジェイに尋ねた。


ここ数日、商業ギルドでの書類作業手伝いを続けて徐々に信用度を積み立てつつクルト・リブールと少し親しくなってきた。その際の情報交換で彼は領地は持たない法衣貴族である文官の子供だと云う事が判明。


実家にいる時に貴族図鑑は渡されて、一応メジャーな貴族の詳細は暗記する様に言われていたのだが、将来の事を考えて領地持ちや大臣職を実質世襲する高位貴族を優先したのでリブール子爵家は名前程度しか覚えていなかったのだ。


リブール子爵家はそれ程大きくは無いのだがそれなりに王都の伝手もあるらしく、色々と興味深いことも教えてもらった。

ジェイが将来何をしたいかにもよるが、王都で働くつもりならば知り合っておいて損はない相手だろう。


まあ、死んだ事になっている元王子様が王都で暮らすのが『灯台下暗し』になるか、『王家を舐めすぎ』になるかは微妙なところなのだが。


「ほぼ離宮に引き籠もっていたから、側近候補として紹介された相手以外とは会っていないかな。

母上もお茶会とかは最小限の個人的な友人としかしてなかったし、そちらも子供を俺に紹介しようとはしなかったからね」

ジェイが答えた。


父上の母親だった側妃はそれなりに社交界に出ていたし公務もこなしていたが、どうやら我々の父親達の内戦未満な王位継承権争いの余波は現国王の側妃の行動にまで及んでいたらしい。


と云うか、そこまで側妃を警戒するならキープしなければ良かったのに。

確かに王国法の規定として決まった年数の間国王に王子が生まれなければ側妃を迎える決まりがあるが、結局側妃から王子が生まれる前に正妃が二人も王子を産んだのだ。

側妃を実家に返すなり本人の求む再婚先なりを見繕って王宮から出すなりすれば、教育をされずに放置されて下手をすれば王家を恨んだ王子の誕生を避けられたのに。


「お前の親父さん、そこまで徹底して息子の教育を放棄するならそもそも何だって産ませたんだ?

3人目の王子なんて特に必要なかっただろうに」

万が一王家が途絶えるようなやばい何かが起きた場合は、血だけならキャルバーグ子爵家にちゃんと王位継承権があり、魔力もある息子が2人も生まれていたのだ。


虐待もどきな放棄をするなら産ませた意味が分からない。


ジェイが溜め息を吐きながら道を走ってきた馬車を避けた。

「なんかねぇ、母上が言うには俺が王子だって分かった途端に正妃様が自分の息子達が殺される!って大騒ぎをする様になったんだって。

年下だからって安心は出来ない、きっと兄を嵌めて王位を簒奪しようとするって」


兄王子達を嵌めたからと言って正規に王位を継承した場合は簒奪と言うのかは知らんが・・・なんかその言い方だと、父上と現国王との争いって正妃が何か引っ掻き回して敢えて波が立つ様にした結果なのかな?


元々父親は側妃腹だから王位継承権は弟王子の方が高かった筈だけど、有能さ次第では変わるかも知れない程度の違いだったと聞いた。自分が王妃になれないかもと焦った正妃(と外戚の地位が欲しかったケスバート公爵家)が父上側が内戦もどきな行動を取るように嵌めた可能性はあるのかも?


普通に有能さの比較で決めるのだったら側妃腹の王子でも王位につけたが、内戦モドキな簒奪ムーブに近い行動を取られると血の正当性が重視されやすくなる。


まあ、正妃の実家が嫌われすぎててマジで内戦一歩手前まで行ってしまったって話だけど。

先代国王が内戦一歩手前まで国内の緊張状態を放置せざるを得なかった理由の一つが誰が裏で糸を引いているのか調べが中々付かなかったからだと父上は言っていたが、もしかして正妃の実家ケスバート公爵家が糸を引いていたせいで分かりにくかったとか?


真相はそれこそ国王や先代国王しか知らないかもだが・・・もしかしたら、ジェイが生まれた際に過剰反応した正妃を見て、国王も何か思うところがあったのかも?

だがそれだとしても、もう少ししっかりジェイを守って育てろよとは思うけど。


マジで教育だってキャルバーグ子爵家うちより網羅してなかったし、暗殺されそうになるしでちょっと父親としては落第点だぞ。


「ふうん。

・・・まあ、それはさておき。

殆ど誰とも顔を合わせて無いなら、リブール子爵家のクルトと会うか?

家が代々継いでる役職は長男に行くし文官試験に合格しても次男で枠が一杯だから、本人は商業ギルドで働くか大きな商家への婿入りを狙っているらしいぜ。

商業ギルドとか商家入りを狙っているならあいつの知識は教えて貰っても悪く無いと思う」


貴族の子供は男女問わずに王宮で働く際の優先権が与えられている。

だが、流石に無能を王宮で無制限に抱える訳にはいかない。なので各家で二人まで、優秀な順に受け入れると言う暗黙の了解があり、無能すぎる人間を押し込んで王宮に迷惑を掛けた家は枠を永続的に没収される事になる。

だから子供達が有能さレベルを満たしていなかったら贔屓にしている商家の人間を一代限りで入れる事すらあるとの話だ。


三男となると露骨に兄達が無能か武官入りを希望していない限り文官の道は無いので、クルトは民間側の伝手を広げるのに熱心なのだ。


兄達も自分たちの競争相手にならない様に熱心に協力しているらしいし。


流石にジェイが文官として王宮で働くのは危険すぎるだろう。そうなると探索者になるとか辺境伯とかの騎士団に入るとか言うので無い限り、クルトの様なルートが一番現実的かも知れないと思ったのだ。


「う〜ん、僕としては探索者の方が夢がありそうだと思っているんだよね。

でもまあ、向いてなかったら商業ギルドもありかもだから、会って親しくしておくのは良いかも?」

ジェイが軽く頷きながら言った。


う〜ん、流石ドロドロな王宮育ち。

さらっと下心満載な友人関係を肯定された。


それはさておき。

王子様は探索者の方が夢があって憧れを感じるのかぁ。

俺としては前世の記憶もあって、戦闘も含むフリーターな探索者はよっぽど適性がない限り堅実性に欠けると思う。

だから魔道具師とか錬金術師とか商業ギルドでの出来る職員なんかの方が良い気がするのだが・・・まあ、考えてみたら商業ギルド職員もそれなりに伝手がないと将来性はあまり無いかな?


取り敢えず。

クルトもそれなりに現実的なタイプだし、ジェイと気が合うかもな。

今日は折角ジェイと一緒だから王都の外の依頼を受けようと言う話になっているが、クルトを見かけたら紹介だけでもしておこう。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る