第12話 友人候補

「おはようございま〜す。

探索者ギルドから来たデリクです」

手当たり次第にスキップ試験を受けまくって無事それらに合格した私は、今年は実質戦闘一般の授業しか無いので週2日の午後だけ学院に行けば良い事になった。


流石に貴族令息が一人で王都の外に出る依頼を受けていたら危険だし、話が広まったらそのうち人目がないのをいい事にケスバート公爵家次男ザルバルタがアホな事を企てかねない。

なのでジェイや辺境伯子息サムラーダと依頼を受けられる時以外は王都内の雑用的な依頼を受ける事にしている。


ちなみにサムラーダはお小遣い稼ぎと言うよりは腕が鈍らない様に討伐依頼を受けたいと言っていたので、まだそこまで実戦経験を積む機会が無かったジェイと一緒に依頼を受けるのは無理そうだ。


まあ、ジェイも下手に高位貴族と親しくなるのは避けたいと言っていたので当分はそれで良いだろう。


ジェイは離宮でそれ程しっかり教育を受けられなかったし、キャルバーグ領に来てからは侍従の教育に忙しかった。お陰で現在は学院の授業に着いていくので精一杯らしく、週末もそれなりに復習に時間を掛ける必要があると言っている。


と言う事で、今日は商業ギルドの方での雑用依頼だ。

探索者ギルドは誰でも登録できる社会の脱落者救済組織セーフティネットという性格もある事から、戦闘能力を要さない街中の雑用依頼も集まる。

なので商業ギルドの依頼と言っても倉庫の掃除や荷物運びと言った依頼もあるが、学院の生徒やそれなりな知識とスキルがある人間用のインターンシップに近いような書類作業の依頼も実はある。


とは言え、流石に書類作業はそれなりに依頼する相手を厳選していてチェックも厳しいらしいが。

いずれはそれなりに重要性が高くなる信頼が第一な仕事なので、書類作業に関しては1回や2回程度の間違いはまだしも手抜きや意図的な悪用は一度で出禁になると探索者ギルドの受付でよくよく言い聞かされている。


「ああ、いらっしゃい。

君は・・・算盤が使えるんだね」

奥の机から立ち上がって出てきた商業ギルドのおっさんが提出した依頼書類を受け取って内容を確認しながら頷いた。


「はい。

学院でスキップ試験も合格しています」

どうせ貴族のガキが平日中に依頼を受けに来るとなったらスキップ試験に合格していて時間があるか、授業の合間に無理矢理時間を作り出している貧乏貴族の子息かだ。


まあ、キャルバーグ子爵領も父親の婿入りまでは典型的な貧乏貴族だったんだが。

今は財政を立て直しているし、父親と兄たちの豊富な魔力で色々と開発が進んでいるので貧乏から脱しつつある。教育に関しては王家が家庭教師を派遣してくれたので王子だったジェイよりもしっかり教育されているぐらいだ。


マジであの国王はジェイに関して何をやっていたのか不思議すぎる。

内戦一歩手前まで行った兄の子供たちの教育を気に掛ける暇があったなら、自分の三男の境遇や教育にもしっかり気を配るべきだっただろうに。


まあ、それはさておき。

今日は計算書類のチェック業務の手伝いだ。

これをそれなりに熟して信頼を得たら、もっと色々と書類作業も教えられてランクの高い依頼バイトに繋がるらしい。


もしも将来魔道具屋とかを開く事になった場合は重要な知識と伝手になるかも知れないのだ。

しっかり頑張らねば。


とは言え。

前世の記憶が7歳で蘇った時点で勉強の重要性を理解したので、それなりに真剣に授業を受けてきた。だが別に算盤塾に通っていた訳ではなく、大学でも数学なんて最初の初年度の必須でしかやっていなかったので今では微分も積分もうろ覚えだ。


社会人になってからは計算機とエクセル任せだったので自力での計算が得意という訳では無いのだが、だからこそ記憶が蘇り、自分の将来がかなり庶民的なモノになる可能性が高いと知ってからはしっかりと算盤の使い方とかもマスターした。


日本では算盤をがっちりやったら暗算とかもガンガン出来るようになると言う話だったが、残念ながら他にも魔術や探索の技術や剣術なども学ぶ必要があった私はそのレベルまでは到達出来なかった。


でもまあ、真面目にやればちゃんと商業ギルドのお手伝い依頼を受けられる程度ではあるので、変に悪目立ちしなくて丁度いいぐらいなのでは無いだろうか。


そんな事を考えながら商業ギルドのおっさんの案内されて奥の机の方に行ったら、既に別の少年が算盤を動かしながら書類を捲っていた。


「クルト君、こちらは同じ手伝い依頼をしに来てくれたデリク君だ。

お互い分からないことがあったら助け合って欲しいが、あまり時間をかけて悩まずに問題がある時はこちらに声を掛けてくれ。

デリク君、君もこちらの計算書類の確認を頼む。

問題があるのは鉛筆で間違っている部分を書き込んでこちらへ入れておいてくれ。

チェック済みのはこちらの箱だ」

おっさんがクルトの前にあった数枚の紙が入った箱の横に新しく箱を置きながら言った。


お、信頼重視な商業ギルドだけあって、誰がチェックしたかも個別に分類しておくのか。

変なやつと一緒になったせいでとばっちりを食うリスクが減って助かるな。


クルトとやらは先日の戦闘一般の授業で見覚えがある。なのでスキップ試験を合格したらしき同級生だから能力的には信頼できるだろうが、ザルバルタに繋がっていたら危険だ。


「よろしく。

デリクだ。

戦闘一般で先日一緒だったよな?」

こちらから挨拶する。

確か同じ子爵家だったけど、王位継承権持ちの俺の方が地位が高くなるので先に声を掛けておく方が無難だろう。


本来は、探索者ギルドの依頼で家の地位とか声掛けの順位とか気にする必要性は無いんだけどね。


そこそこ小心者っぽく見えるから、あまり最初から貴族社会の常識から逸脱した事はしない方が安心だろう。


「・・・こんにちは。

クルト・リブールです、デリクバルド・キャルバーグ子爵令息」

ちょっと細い声でクルトが答える。


あらま。

頭が固いタイプなのか?

それともうっかり馴れ馴れしいと言われるような行動をとって叩かれるのを警戒しているのか。


「どうせ成人後は平民になる予定の子爵家三男だ。

社交界でのパーティならまだしも、ギルドの依頼で出会った場合は普通にデリクと呼んでくれ。

ウチの家系の人間と付き合うのを避けたいと言うのなら、できるだけ接触を減らすよう頑張るが」


学院でもそれとなく避けられているのだ。

折角の学友候補だが、嫌がる相手に粘着して声掛けするつもりはない。


幸い、クルトは思ったよりも小心では無かったのか。俺の言葉にあっさりと頷いた。

「分かった。

じゃあよろしく、デリク」


よっしゃ!

文系な友人候補ゲット!




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