第11話 長所を見い出す

「授業に参加する生徒は集まれ!」

サムラーダに魔獣襲撃器シミュレーターの使い方を教わり試していたら、広場の中央の方から成人男性の良く通る声が響いた。


父上もだが、軍事訓練を受けた連中って発声練習もしているのか、凄く声が通るんだよねぇ。

まあ、もしかしたら何かそれ用の拡声魔道具や魔術があるのかもだが。


と言うか、父上はキャルバーグ子爵領では必要に応じて兵を纏めて山賊や魔獣や危険な野生動物とかの討伐に出てるけど、結婚前は軍事訓練をどの位受けていたんだろう?

王子様に直接軍を率いる訓練は必要ない気もしないでも無いが・・・第二王子正妃の息子が立太子したら軍部のトップとして戦闘に特化する可能性もあったのかな?

王位継承権の高い人間を軍事力へのアクセスがある役職に就けるのは危険だと思うが。


でも、今代も第二王子が脳筋系で騎士団にでも入りそうな雰囲気なようだから、円満に立太子の流れが決まった時はあまり簒奪リスクを気にせずに他の王子の才能を活用するのがベルギウス王国のスタンスなのだろうか?


そんな事を考えながらガヤガヤと雑談をしている生徒に混ざって男性の元へ集まったところで、その男性がパンッと手を叩いた。

「この授業を担当するベグラス・ケーライトだ。

第一騎士団副団長の役職にも就いているから有事の際には他の者が代わりに授業を請け負うこともあるが、その際も俺の指導だと思って文句を言わずに全て従う様に!

この授業は貴族の子息としての義務である戦闘技術を磨く為の基礎を叩き込む時間だ。

騎士団や自警団にいると思って無駄話をせず、命令されたら素早く小走りで動け!」

ケーライトがジロリと生徒たちを見回しながら宣言した。


なる程。

高位貴族の奢った令息とかがいると色々と面倒だから、最初からそれなりな地位の人間を連れてくるのか。


まあ、魔物がいる森の中での演習とかもあるのだ。

馬鹿な貴族令息らが言う事を聞かずに暴走して死んだりしたら色々面倒だろうし、騎士団に入ってくる次男や三男が親の爵位を笠に上の言う事をちゃんと聞かない習慣を学院で身に付けてきていたら面倒だと言う事で、ここでガツンと教え込むのかな?


ケスバート公爵家次男ザルバルタの思い上がりを上手い事叩き潰してくれると期待しよう。

もしかしたらそれで根性が少しは真っ直ぐになるかもだし・・・少なくとも演習時にあいつのアホな行動のとばっちりを私が受ける確率は下がる。


入り口付近のゴマすりを見てこのクラスの期待値を下げたのだが、思ったよりも悪くないかも?


「ベルギウス王国の貴族の義務は、敵国や魔物相手に戦い、国と民を守る事だ。

魔術と言う平民には滅多にない攻撃手段を持つからこそ我々の先祖は貴族として取り立てられ、今でも領地や役職を任されている。

だから一度有事となれば貴族は前線に立って兵を指導しながら戦ったり、民を守りながら撤退戦をする事が求められる。

その為にはどの様な戦い方があり、様々な状況でどう対処するのが適しているかを知らねばならん。

そう言った貴族の義務における戦闘面の事を教わるのがこの授業であり、変な忖度をされる危険がないここで戦闘集団の下っ端としての心構えや野営時の基本的な作業も教える事になっている」

ケーライトが言った。


まあ、騎士団とかに入ったら高位貴族の息子だろうが最初は従騎士なんだから下っ端作業はやらなきゃだもんな。


野営に関しては・・・『本隊と逸れたせいで餓死』なんて情けない事にならない様に基礎を叩き込んでおく方が無難だろうな。


貴族の息子なんぞにそれを教えるのは騎士団側もやりにくいだろうし、先に学院で基礎を叩き込むのだろう。

どの程度効果があるかは知らんが。


「下っ端の作業なぞ、下位貴族や平民にやらせればいいのでは?」

ザルバルタが声を上げた。


「騎士団も軍も、実力社会だ。

平民だろうとお前より有能であれば上司になる。

あと、下っ端は許可されるまで勝手に喋るな!

罰にこの後広場を5周走るように」

ケーライトが冷たくザルバルタを一瞥して答えた。


おお〜。

反論しようとした坊やザルバルタが気迫負けしてるよ。

ざまぁ。

次の授業に出てくるか、見ものだな。


とは言え、必須科目だからスキップ試験に合格してこの授業の単位を貰わなければ卒業出来ない筈だ。

戦闘一般の授業のスキップ試験ってどんなモノになるのだろう?

1年では実技系の授業が殆ど無いから興味はある。

是非ゴネてスキップ試験を受けると主張して貰いたい。

こっそり覗き見したいところだ。

絡まれたら面倒だし、スキップ試験で手痛い目に遭ってゴネて不正でも主張し、それで追い出されてくれたら更にありがたいのだが。


まあ、次男はまだしも、ケスバート公爵は流石に国王に睨まれている状態で貴族社会の根幹とも言える学院のやり方にイチャモンをつける程馬鹿ではないだろうけどね。

馬鹿だったらそれはそれで楽しい事になりそうだが。


現実的な解決策としては今年は単位を落として、来年は違う忖度するような人間が戦闘一般の授業を受け持つ事になるよう根回しする感じかな?

ある意味、それが上手く行くか否かでケスバート公爵家の権勢が判断できるかも。

息子をまともな大人に育てる為には、忖度なんぞする教師を手配するのではなく追い出すべきだと思うが。


「先ずは全員の能力を確認して幾つかのグループに分ける。

基本的にこの授業では生徒がお互いと戦って我々が改善点を指摘し指導していく形になるが、今回だけは全員に教員と打ち合って貰う」

ケーライトがそう言って、まず自分と補助教員2人の3グループに生徒を割り振った。


お。

サムと同じ集団になったな。


補助教員も現役の騎士なのか、戦い慣れた様子で生徒たちと順々に手合わせをしていく。

サム以外はほぼ誰でも余裕に一撃で倒せそうだが、そうはせずに相手に打たせて弱みを把握してから討ち取っているっぽい。


残念ながらまだ私もしっかり戦闘のプロとして訓練された成人男性を打ち負かせる程の技能はない。

まあ、対人間よりも対魔物戦闘を重視してたしね。

それに変に腕が立って目立つのは下策だろう。


「ふむ。

ジェルダは反応がとびきり早いな」

戦っている連中を見ながらサムが呟く。

他の授業にちゃんと出席しているのか、皆の名前も既に把握しているっぽい。


その後も、

「テッスは身長から予測されるよりも手足が長くてリーチが遠くまで届いているようだ」

「フィリウスはバランス感覚が抜群だな」

「クライトはもう身体強化出来ているようだね」

などなど、目の前のケーライトと手合わせしている連中だけでなく。補助教員と戦っている連中にも注意を払いながら長所を指摘していく。


凄いな。

私も弱点はそれなりに直ぐに見ていて分かるのだが、長所っていうのはもう少し集中しなければ分からないし、あまり探そうと言う気も今まで特に無かった。

でも、誰かを指導する羽目になるなら長所を褒めてから改善点を指摘する方が相手も聞き入れやすいだろう。


流石、兵を率いた戦いが多いヘルベルト辺境伯領の令息だね。

もしも私がどこぞの領地の私兵になるんだったら、サムの実家は悪くない選択肢かも。

しっかりと配下の人間を鍛えて伸ばしてくれそうだ。


まあ、現時点での漠然とした計画では魔道具屋か探索者が一番気楽で楽しそうな感じだけど。

でも万が一、戦争や魔物の大規模発生みたいので全ての貴族家に誰か若いのを出せって命令が出た場合なんかは、出来るだけヘルベルト辺境伯領で戦いに参加するよう頑張るのが狙い目かも?


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