第6話 存在意義

「生さぬ仲な第一夫人に殺され掛けた少年に出会って友人になりました。

折角だから彼を侍従として王立学院に連れて行きたいんですが、何処か適当な分家の庶子か三男って事に出来ませんか?」

ジャイルスに変装用の術を掛けて見た目を変えて家の中を進み、書斎に入って父しか居ないのを確認してから変装を解いて希望を投げかけてみた。


ジャイルスの顔(目だけかも?)を見てぶっとお茶を吹き出した父上が、ケラケラと笑い始めた。

「国王の息子を子爵家三男の侍従にするのか?!」


確かに酷いかも?

でも、国王の息子が身分を隠して探索者見習いになり、どっかの破落戸に嵌められて奴隷商人に売りとばされるよりはマシだと思う。


「12歳でこのまま探索者見習いになるよりは、ちょっと見た目を変えて田舎貴族の侍従って事にして教育を受けながら大人になるまで時間を稼ぐ方が生き残れそうだと思いませんか?

私としても、学院卒業後に一人で世に出ていくのはちょっと心配だったんで仲間が居たら心強いですし」

実際に成人した後に一緒にいる事になるかはまだ不明だが。


でも、王立学院に通っている間に探索者見習いを一緒にやってくれる人間が居るだけでもそれなりに安全度が高まる。


「離宮育ちで探索者見習いは無謀だろう。

流石に王子が2度も殺されかければ国王もまともに取り合うんじゃないか?

目障りになってきた外戚を抑え込むだけの証拠も固められただろうし」

父上がジャイルスに声を掛けた。


おや?

ジャイルスの暗殺未遂とか、その周辺の情報を知っているんだ?


「・・・ケスバート公爵家王妃の実家を抑える材料として使う為に私は利用されたのでしょうか?」

ジャイルスが静かに尋ねた。


「王妃の子供達の競争相手になる程の条件でも無い年下の第三王子を態々殺そうとするとは思っていなかったから出遅れたんだろうが、多分最初の暗殺未遂で釘を刺したとは思うぞ?

それを無視する程ケスバート公爵家が驕っているならば、次はしっかり掣肘するだろうし・・・流石に王妃の幽閉迄はやらないだろうが、国王を舐めるなと言う警告も兼ねてケスバート公爵家への制裁はそれなりに痛いものになる筈だ」

書斎にあるワゴンからティーカップを取り出して、ポットに茶葉を入れながら父親が言った。


元王子とは言え貧乏子爵として長いせいか、父上は今では人を呼ばずにお茶を淹れるぐらいのことは自分でしている。

私がやるべきだったと慌てて立ち上がったが、座っているように手を振られたのでソファに身を預けた。


「陛下が側妃の王子なんぞの為に公爵家を掣肘すると?」

父上に対して『まさかぁ』と露骨に言っては失礼だと思ったのかジャイルスの声音は抑え気味だったが、『ないっしょ〜』と言う想いが仄かに漏れ出ているぞ?


「王妃の実家って言うのはある程度の権力を有していなければ王太子が王座についた際の支えにならんが、外戚って言うのは放っておくと肥大化し過ぎる傾向があるからな。

ある程度治世が落ち着いているなら、王妃の実家を切り下げられる正当な理由は国王にとっては有り難い口実だったと思うぞ?

出遅れた初回はまだしも、2度目となれば最大限に活用するだろうさ」

ポットとティーカップを持ってソファの所へ来た父上が言った。


「もしかして、国王陛下と連絡を取り合っているのですか?」

もしくは王宮に情報源が居るのか。


父上が肩を竦めた。

「政争に負けた王子なんぞ、一番国王から遠い存在な上に不満を持つ連中が集まりやすい対象だろう?

情報交換はお互いにとって得るものが多いし、国に為にもなる」


「父上と叔父上は王宮で耳にする程仲が悪い訳では無かったのですね・・・」

ちょっと寂しげにジャイルスが言った。

彼と兄王子達は疎遠なのかな?


「元々側妃の子なんて言うのは、王妃が最後まで子を産めなかった場合を除けば濃くなり過ぎてひ弱になりがちな王家の血を適度に薄めて貴族に混ぜる為の存在だ。

ある意味王妃の第二王子よりも重要なんだぞ?

それを殺そうとしたんだ。

国王が怒っても当然なのさ」

ポットにお湯を注ぎながら父上が教えてくれた。


あれ?

そうだったの?


「まあ、俺たちが側妃の子の存在意義を教わったのは、俺が政争に負けたのにあっさり子爵家とは言え貴族の家に婿入りを許された時だったが」

肩を竦めながら父上が言った。


なるほど。

ラノベなんかだと、アホな事をしたり過ぎた野心を持った王子は幽閉されるか、少な

くとも断種される事が多い。

そう考えると子供を3人も産ませるのを許容した上に家庭教師まで派遣してくれるなんて随分と親切だ。


王家の血を国全体の国力アップに使うと言う考えがあればこその対応なのだろう。


「王家が抜きん出て強くある必要はないのですか?」

ジャイルスが尋ねる。


「魔力の大きさで王家が国を抑えつけて治めた時代はとっくのとうに終わっている。

今でも側室義務が残っているのは、王族を多めに産ませて貴族の底上げをする為なのさ。

少なくとも、前王と現国王はそう言う考えだ」

父上が言った。


確かに、王族が直接大型攻撃魔術で国民を大量虐殺する事で畏敬の想いをかきたてるのは国が成り立った初期だけの手法だろう。

脅しとしてはキープしておくために子供のころから魔力の使い方を徹底的に教え込み鍛錬させるだろうが、実際に使うシーンは余りなさそうだ。


そう考えると、王族だけが魔力が多いよりも戦場に送り出しやすい普通の貴族の魔力が嵩上げされる方が国防にとってプラスになる。


「でも、だったら何故私の将来が微妙なんでしょう?」

貴族に王族の血を混ぜることが目的なら、もっと婿入りの話とかを王家がそっと息のかかった貴族に命じて推し進めれば良さそうなものだが。


「この国の下級貴族が、王家われわれの想像以上に王族の血と言うモノに萎縮することが発覚してな。

カルペウス次男でも婿入り先にどうかと提案したら青くなって断られたから、三男は更に難しいだろう。

かと言って、伯爵家になると子爵家から婿入りさせるならきっちり首の根を抑えられる下の立場の者が欲しいらしくてな。

下手な扱いをすると不敬罪なんて言葉が出て来かねない王位継承権持ちは『畏れ多すぎます』と言う都合の良い言葉で何処からも断られた」

溜め息を吐きながら父上が言った。


「・・・父上は貧乏伯爵家に婿入りするべきだったのでは?」


歴史に習った範囲では、王位継承権持ちの王子が断種せずに子爵家や男爵家に婿入りしたケースは過去にも無い。

そう考えると今回のような問題が起きる可能性は十分予測すべきだったのでは無いだろうか?


「俺が頑張りすぎたせいと・・・あの頃からケスバート公爵家の傲慢さは鼻につくレベルだったせいであいつらの政敵が多かったから、こっそり裏から俺にも秘密でこちらに協力する連中が意外と多くてな。フェルナン国王陛下との競争が均等になりすぎて、下手をしたら本格的な内戦になりそうな事態になってしまったんだ。

俺は真面目にフェルナンの婚約者が国母になるのは不味いと思っていたから真剣に国王になろうとしていたし、父上は俺を唆している黒幕を炙り出すのに時間が掛かったせいで事態の収拾が遅れたしで、旗頭だった俺を幽閉したり断種したりせずに明確に国王になる目が無いと示すには下級貴族へ婿入りさせざるを得ない状況になってしまったのさ」

苦笑しながら父上が言った。


父上が頑張りすぎたのが諸悪の根源だったってことなんだね。

まあ、良いけど。


「ちなみに、だとすると私やジャイルスが国を出ようとすると追っ手が掛かったり・・・します?」

国外に強力な魔術師に血をばら撒くのは国益に反すると見られそうだ。


「可能性は、あるな」


ふむ。

国内で満足できる暮らし方を見つけるか・・・完璧に行方を晦ます方法を考えておくかしないといけないと言う訳か。


「では。

第三王子をうっかり他国の奴隷商人に売られたりしないためにも、是非とも私の侍従扱いでの王立学院への入学に協力をお願いします」

裏ルートで売られちゃった王子を探すよりは、こっそり身近なところで教育するのを守る方が楽だと思うよ?




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