LOVEはじめ

黒味缶

LOVEはじめ

「LOVEをはじめようとおもう」

「えっ?」


 始業式の後、放課後の教室。大真面目な顔で何かをのたまった友人に、思わず聞き返した。

 彼女は腰に手を当てて無い胸を反らしながら、得意げに語る。


「だから、始めるんだよ。LOVEを。可能なら恋愛的な意味でのやつを。私はここまでの高校生活で理解したの!待ってるだけじゃ青春って始まらないんだ、って!友情や恋愛というビッグラブは、こっちから動き出さなきゃ動かないものだ、って!!」

「恋愛って始めようと思って始まるもんなんだ?」

「少なくともこっちからのは心持ち一つでだいぶ始まると思う。好きになりたいと思って人を見れば、好きになれるところの1つや2つはみつかるでしょ!」


 確かに、何事も興味を持って始めないと何も始まらない。とはいえ、今聞いたこの友人の思考には、あまりいい顔をできなかった。


「そんな風に無理矢理好きになるのはあんまりよくないと思う。なんか……恋愛のために相手の事を消費する感があるっていうか」

「むっ……むう」


 思わず、といった風に考え込む姿勢になった彼女を見て、少し言い過ぎたなと思った。

 こちらもつい、慌てて言葉を続けてしまう。


「いや、人を好きになる努力自体は、とてもいいものだと思うよ。青春とか恋愛とか抜きに、それを始めてみるのはめちゃくちゃいいと思うし……"恋愛のために!"みたいなのはあんまり共感できないけど、やろうとしてること自体はいい事だと思う」

「ん。ゴメンねフォローさせちゃって。新年だしで気合い入れたけどちょっと間違ってたかもだし、ちょっと考えなおしてみる」

「こっちもごめん、折角の新年のやる気に水を差して……」

「いいよいいよ、冬休み誰とも会えなくて考えが暴走してたかもってちょっと冷静になれたし!」


 彼女はこっちの背中を軽くたたいて元気付けてくる。

 まだちょっと不用意な事を言ったと感じていたせいで、一緒に帰ろうと言ってくれた彼女に頷くことしかできなかった。



 寒い帰り道。彼女と別れた後で少し先ほどの事を考える。

 物事のスタートにケチをつけてしまった罪悪感半分、彼女が他の誰かのものになるのをちょっとだけ阻止できた嬉しさ半分。

 それを自覚した僕は、そう遠くないうちに彼女と恋人としての日々を始めることを心に誓った。

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LOVEはじめ 黒味缶 @kuroazikan

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