第13話 ダッチ

 俺は今ダブルベッドに腰かけている。横には逢沢カレンちゃんがいる。今さっき山城さんの演技指導が終わって、スタッフの準備が整い次第本番だ。このシーンは、この「ダッチワイフ物語」の見せ場の一つで、カレンちゃん演じる、高性能汎用人型ダッチワイフが、人間の心を持ってしまい、よってきた男に恋をして、やっちゃうというシーンだ。物語としては、ダッチワイフである主人公の、ダッチワイフである自分と、心を持ってしまった自分のジレンマを描いてる。誰かを好きになっても、ダッチワイフとしての機能が作動してしまい、結局誰とでもやってしまうという苦悩をコミカルに。監督が近づいて来た。

「ここはもう気持ちだから。気持ちでやって下さい」

俺もかれんちゃんも「はい」と頷くと、一気に緊張感が走った。

「はい、じゃ本番行きます」

と監督がモニターの裏へ下がった。

「はい回ったー、よーい、あい」

カチンコが鳴った。


「私、実は・・・」

「気づいてた・・君が最先端の技術を駆使して作られた汎用ヒト型ダッチワイフだってこと・・・」

「え!?」

「君がダッチワイフだからって、僕は君を軽蔑したりはしない!」

「しんのすけさん・・・」

「愛してるよ、エリカ」

キスをし、淫らにおっぱじめた。


「はいカット」とカチンコが鳴り、はい、オッケー、と監督が煙草に火をつけた。大体はモニターを一度チェックするんだけど、ここはオッケーみたいだ。山城さんの目が潤んでいた。泣けるシーンか?と普通に思ったが、山城さんは、ちょっと変わってる人だ。まず煙草を吸い過ぎだし、自分の頭の中に完璧に絵がある。俺なんかの想像力の遥か上を行ってるのだろうと思った。

 まだまだカットは残っていたが、俺の撮影は今日だけで終わりだ。台本をもらってから撮影まで今回は5日しかなかったけど、脇役な分、セリフも出番も少なくて前回ほどのしんどさは感じなかった。主役で出た前回でギャラは5万だから、今回はめちゃくちゃ安いのだろう。けど、金は欲しいけど、金じゃないと思ってるよ。今はなんでもやって少しでも皆様に覚えてもらわないとな。こんなに可愛いカレンちゃんとラブシーンできるだけでもラッキーなはず。今カレンちゃんは次のカットに備えて全裸。前ばりはもちろんしてるけど。そんで俺も。俺ひょろいんだよな。鍛えとけばよかったよ。って、俺は思ってるんだけど、カレンちゃんは全く気にする様子もなく、「取れそうだよ」って笑った。よく見たら俺の前ばりがはがれかけていた。そりゃそうでしょ、こんな美女の裸見たら、普通ギンギンでしょ。それを前ばりでおさえようなんて、そんな不自然なことってある?



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