第12話 レバカツ

 キッチン裏の扉は冬場以外は常に半分開いていて、外に出ると灰皿が置いてある。営業中はここで煙草を吸っていい事になっていて、今は俺の番だ。真夏の夜の暑さも中々だが、灼熱のキッチンに比べればまだましだ。少し前までは吸い放題だったが、ここで煙草を吸える事がだんだんとありがたく感じてきた。マスターがインターネットを使って店の宣伝を始めたのがきっかけで、客足が伸びてきたのだ。有希も前に言ってた気がするけど、そういう時代なのかもしれない。これまでバイトだったたけちゃんが正社員になって、今はランチタイムも営業をしてる。リュウ君が中国へ帰った分、バイトの子を増やしたけど、それでも少し足りない気がするな。呼び込みが当たり前だった営業から、ホールにいるのが当たり前の営業に変わっていってる。俺もこうやって徐々に人気が出ていかないといけないわけで、この前リリースされた「マンゴー学園」だけじゃ売れようがない。見たら内容は意外にちゃんとしてたけど、カレンちゃんのファン以外誰が見るんだ?今の事務所に入ってから、再現VTRとか、企業内で流れるPVとか、ギャラありで学生映画に出たりとか、ちょこまかと仕事はしてる。舞台は一切やってなくて、一番やりたい事に近いのが、皮肉にもエロ映画ってわけだ。内容がエロじゃなくて、劇場公開さえしてくれれば、少しは世間に覚えてもらえると思うんだけどな。まあ、自分の名前を検索すると、作品名と共にネットに上がるようになっただけでもましか。

 ポケットの携帯が震えた。メールだ。表示は「ペニーさん」。マネージャーからのメールは、大体が仕事の案件だ。俺は折りたたみを開くとメッセージを確認した。

「お疲れ様です。前作の山城秀樹監督からオファーがきています。新作のO.Vにこれから取り掛かるそうで、主演は、これまた前作の逢沢さんだそうです。今回は、脇での出演で、からみあり、番手で言ったら、3番手4番手あたりだと思います。引き受けていいですか?」

もちろん。俺は秒速で返信した。2発目が決まった。山城さんにはどうやら気に入ってもらえてるみたいだ。またカレンちゃんと共演できるのか。イコール、またエロ映画だけど、数をこなせば少しは知名度が上がるかもしれない。はい、休憩終わり。煙草を消し灼熱の厨房に入ると、社員になったたけちゃんがガチャガチャと料理をしていた。

「たけちゃん、今日のまかないはなんですか」

「そうだなー、レバカツ」

とたけちゃんが答えると、「最高」と言って俺はホールに出た。焼き場のマスターと、新人のなおちゃんが忙しなくしていた。よし、俺に任せてくれ。まずは、ドリンクだな、と俺は新人のなおちゃんに指示を出しつつ、サーバーからジョッキにビールを注いだ。今日のビールは美味いだろうな。マスターはよく店のビールとかハイボールを飲ませてくれるんだ。この前飲み過ぎて怒られたけど。売れたら恩返ししますんで許して下さいよ。なんちゃってね。

 

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