2章 第8話 HOPELESS
JR総武線の本八幡駅から徒歩数分のこの箱には、今まで何度も足を運んだ。「ザ・ホープレス」はよくここでライブをする。もちろん、新宿や渋谷、下北沢のライブハウスでも演奏する事はあるんだけど、おそらくここが一番多い。キャパは大したことない小さな箱だけど、ここから羽ばたいてったバンドもたくさんいる。有希の出番は次だけど、二つ前の、「ハングオーバー」っていう、メロコア系のスリーピースバンドとかめちゃくちゃかっこよかったし、有希の次でトリを飾る、「アットマークハー」とかは、一回聴いた事あるんだけど、四人組で、エモーショナルなサウンドとメロディーがすごくよかった記憶がある。全然売れてもおかしくないと思うんだけどな、俺は。もちろん、ホープレスも含めてね。今のホープレスになるまで結構いろいろあった分、バンドのクオリティーは高くなってると思う。有希は元々メロディーセンスがあるから、そこが強みだ。弱みは、ドラムのフジモンが女好きでバカなとこ。高校の時の後輩なんだよ。悪い奴じゃないんだけどさ、目立ちたがり屋で、目立つと必ずスベるんだ。マジでドラムだけ一生叩いてればいいのにって思うよ。ベースは、ジョージって奴で、酒飲まないと喋らないけど、プレイに問題はないから、やっぱフジモンのせいかな、売れないのは。テンションが上がると、その分走り出しちゃうドラムは問題だな。ホープレスの客だけじゃないけど、ライブをすれば大体フロアは埋まるようになってきたし、もうちょいだと思うんだよ。曲もいいし。ここまで来るのに結構時間がかかったわけだから、早くここから羽ばたいて行ってほしいんだけどな。まあ、俺の方が先に売れるけど。
照明が落ちて、グリーンデイの曲が爆音でフロアに流れ始めた。ホープレスの出番だ。客がステージの方へ集まって来る。俺は徐々に埋め尽くされていくフロアの最前列を既に陣取っている。テンションが上がってきた。まず、金髪のジョージが出て来た。有希が金髪だった頃が懐かしい。次にフジモン、有希と続く。がたいだけ見る分には迫力があって、フジモンはやっぱドラムが似合ってるなと思った。有希がギターをぶら下げ、車椅子の足元辺りで構えた。いつものスタイルだ。折れ曲がったスタンドマイクの高さを調整すると、有希が喋り出した。
「こんばんは、ザ・ホープレスです。今日は、4曲しかやんないんですけど、アンコールの曲を2曲用意してるんで、結局は6曲やります」
フロアから大きな笑いが起きた。じゃあ、最初からアンコールなしで6曲やれや、掴みはオッケーだ。フジモンが何か喋っていたが何を言ってるか分からなかった。
「フジモンわかった、シー」
と有希がジェスチャーを交えフジモンの話しを阻止すると、再び笑いが起こった。その渦中、有希が「新曲やります」といきなり演奏を始めた。有希の歪んだギターから始まり、ベースとドラムが加わった。アップテンポでキャッチーな曲だった。客がモッシュし始めた。俺も。ベースのジョージは弾いている姿がかっこいい。フジモンのパフォーマンスじみた叩き方は微妙だ。有希が歌い出した。いい曲だと純粋に思った。よし、ダイブしよう。もうどうにでもなれ。ロックってやっぱ最高だな。
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