第3話
しばらくすると彼は立ち止まり、近くにある露店に興味を持ったようで足を止めると、じっと商品を見つめていた。そんな彼の様子を見たらいつの間にか優しい笑みがこぼれて、口を開いた。「何か欲しいものがあるんですか?」「ああ、君に似合いそうなものがあってね」
彼は嬉しそうな表情でこちらを見上げた後で再び露店へと視線を向けた。
「.................どれか欲しいものはある?」彼が尋ねると私は少し悩んだ後で一つの商品を指差した。それはシンプルなデザインのリボンがついた髪飾りだった。「これが欲しいです」と私が言うとデューク殿下は袋を取り出しながら店主にお金を支払った後で、私に手渡してくれた。「ありがとうございます!」
私は受け取ると早速頭に付けてみたが、少し高い位置にあり上手く結べなかったので苦戦していた。
すると、彼は私の後ろに回り込んで、髪を優しく撫でてからそっと髪に触れてきた。そして丁寧に整えてから綺麗に結んでくれたので、私は喜びの声を上げた後で彼にお礼を言った後、そのまま手を繋いで歩き始めた。
その後も色々な店を見て回ったり、パレードを見たりしているうちに、あっという間に時間は過ぎていき、夕方になった頃、私がふと何かを思い出した後に口を開いた。
「..................最後に、あそこに行ってみたいです!」
私が指差した先には高台にある公園があった。そして、その場所からは王都全体を見渡すことができるようになっていたのだ。「わかった、行こうか」そう言いながら彼は、私の手を引くとゆっくりと歩き始めた。
そうして高台の公園に到着すると、夕日に照らされている街並みが一望できた。その光景はとても美しくて、目が離せなかった。私が感動しながら景色を眺めていると、後ろから突然声をかけられたので驚いて振り返ると、そこにはデューク殿下の姿があった。「どうだった?気に入ってくれたかな?」彼は微笑みながら聞いてきたので、私は満面の笑みで答えた。「はい!とても素敵な場所ですね!」
私が答えると、彼は嬉しそうに笑ってくれたので私も自然と笑みがこぼれた。
それからしばらくの間、私たちは無言のまま景色を眺めていたのだが、やがて彼が口を開いた。「................これからもずっと一緒にいよう」そう言って私の手を握ってくる彼の目は、穏やかで優しく微笑んでいた。
「はい、ずっと一緒です」私は彼の手を強く握り返す。すると、彼の温もりを感じて安心感に包まれた私は、幸せな気持ちでいっぱいになったのだった。
私が、デューク殿下と結ばれてから更に数ヶ月後、私は無事に社交界デビューを果たした。
初めて社交界に出た時には不安もあったが、彼がそばにいてくれるだけで心強かった。
それから私は、貴族の令嬢としての振る舞いや言葉遣いを学んでいったが、それと同時に社交場での立ち振る舞いにも慣れていくことができた。
そんなある日のこと、私はいつものように一人で本を読んでいると誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。顔を上げてみるとそこに立っていたのはデューク殿下だった。彼はどこか落ち着かない様子でこちらを見つめていたが、やがて口を開いた。
「シャーロット.................僕と結婚してくれないか?」突然のことに私は驚いてしまい、固まってしまっていたのだが、すぐに我に帰ると首を縦に振って答えた。「はい................喜んでお受けいたします」そう言って微笑んだ後、彼と見つめ合いずっとその日はおしゃべりをした。
それから数日後、私とデューク殿下の婚約を聞き付けたクラスメイトの女子が、嬉しそうに話しかけてくる姿があった。
「シャーロットさん!おめでとうございます!」
私は戸惑いながらもお礼を言うと、彼女は更に言葉を続けた。「それにしても凄いですよね!デューク殿下はあんなに素敵な男性なんだもの!シャーロットさんも羨ましいです!」
私は、それを聞いて恥ずかしくなりながらも微笑んで返すと、彼女も満足げな表情を浮かべていた。すると今度は他の女子生徒たちも集まってきて、口々にお祝いの言葉をかけてくれたので、私も笑顔で応えていたのだった。
(これからもずっとこんな幸せな時間が続いていけばいいな)そう思いながら私は心の中でそっと願うのだった。
しかし、この中にはよく思っていない人物もいることを、私は警戒していなかったーー。
デューク殿下と結ばれてから数週間後、私はいつものように学業に励んでいた。今日は歴史の勉強をしていて、先生が説明している間も真剣に話を聞いていた。すると突然隣に座っていたクラスメイトのエミリーさんが話しかけてきた。「ねぇ..............シャーロットさんって殿下と婚約したんでしょ?」彼女は興味津々といった表情で尋ねてきた。私は少し照れながらも答えることにした。「ええ、そうよ」と答えると彼女は興奮気味に目を輝かせて続けた。
「どうやって告白されたの!?やっぱり、王子様らしく愛の言葉とか................?」
私はそれを聞いて思わず顔を真っ赤にしてしまったが、エミリーさんは特に気にすることなく質問してきたので、私は一つ一つ質問に答えていくことにした。「えっとね..............最初はお友達からみたいな感じだったんだけど、何度かお会いしていくうちに段々惹かれていった感じかな」
私が答えると、彼女は興味津々といった表情で聞き入っており、その後も色々と質問をされたのだが、どれも答えてしまった。それからしばらくの間は、彼女の質問攻めが続きそうだと思ったが、幸いなことに先生が話を再開してくれたおかげで、事なきを得たのだった。
その後、私はエミリーさんたちと別れてから廊下を歩いていた。
そして、玄関に靴箱から靴を取り出そうと思っていた時だった。
箱を開くと、手紙が入っているではないか。
恐る恐るそれを取り出してみると、『シャーロットさんへ 話したいことがあるので放課後に校舎裏に来てください』と書かれている。
(どうしよう................)と考えながら手紙を眺めていると、あることに気づいた。その筆跡に見覚えがある気がしたからだ。
(でも...............一体誰なんだろう?)そう思いながらも、私は手紙の指示通り放課後に校舎裏に向かうことにしたのだった。
私が校舎裏に到着した時には、誰もいなかったのだが、しばらくすると足音が近付いてくるのが聞こえたのでそちらに目を向けると見覚えのある人物が立っていたことに驚いた。
それはクラスメイトの1人だった。
「シャーロットさん、来てくださりありがとうございます」
彼はそう言って微笑んだ後、真剣な表情になって口を開いた。「単刀直入に申し上げます.............シャーロットさん、どうかデューク殿下から離れてくださいませんか?」予想外のことを言われてしまい、私は戸惑いを隠しきれなかったが意を決して反論することにした。「どうしてですか?私が何かしてしまったのでしょうか?」すると彼は首を振りながら答えた。
「いいえ、あなたに非はありません」
その言葉を聞いた瞬間、少しだけほっとしたのだが彼の次の一言で再び緊張感に包まれたのだった。「ただ..............あなたがいることでデューク殿下は変わってしまったのです」彼はそう言うと悲しげな表情を浮かべた後で再び語り始めた。「以前の殿下は誰にでも優しく接するお方でしたが、あなたと出会ってからというもの、あなた一人にご執心になってしまったのです」
彼はそこで一度言葉を止めると私の反応を伺うような視線を向けた後で、ゆっくりと続きを話し始めた。「以前は他のご令嬢たちとも普通に交流をしていたのですが、今では誰も寄せ付けなくなりました..............それどころか、あなたを取られないように躍起になっている始末なのです」
そこまで話し終えると彼は一息ついた後再び話し始めた。
「今ではすっかり変わってしまった殿下を元に戻すためにも、あなたには身を引いていただきたい。」
私は何も言い返せなかった。
確かに私がいなければ、デューク殿下は他の令嬢と関わる機会は増えただろう。そう考えると、彼が変わったのも頷ける話ではあると思ったからだ。「なのでどうか考え直していただけないでしょうか?あなたには、もっと相応しいお相手がいるはずですよ」その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが崩れるような感覚がした...............。
その後、どうやって家に帰ったのか覚えていない程、私の頭の中は混乱していた。
(私はただ............彼の傍にいたかっただけなのに............)
結局この日は夜遅くまで悩み続けてしまい、ほとんど眠ることが出来なかった。
次の日からというもの、私は彼を避けるようになったのだが、それでもデューク殿下は諦めずに私に話しかけてきたり贈り物をしてきたりと、アプローチを続けていたのだった。
とある日、私はデューク殿下に強く言い放った。
「やめてください、もう大丈夫ですから.............」
と。
すると、彼は悲しそうな表情を浮かべながら去っていった後、私は大きなため息をつくのだった。
その後数日間は彼からの接触は無かったのだが、ある日突然私宛ての手紙が届いた。
差出人を見ると、ある日私を呼び出した彼だったのである。私は恐る恐る封を切ると、中には手紙が入っていた。
内容を読んでみると驚きを隠せなかった。そこには、私が想像もしていなかったことが書かれていたからだった。
『シャーロットさんへ、ごめんなさい!僕はあなたを脅すつもりなんて全くなかったんです!』と書かれた手紙には続きが書かれていた。
『でも、僕はどうしてもあなたを諦めることができませんでした!だからどうか、僕と一緒に来てくれませんか?』
私はその文章を読んで困惑したが、同時に怒りが込み上げてきた。なぜ私が彼の言いなりにならなければならないのかと憤りを感じていたのだ。
だが、その一方で不安もあった。
もしついていった先に、何かあったらどうしようと..............そう考えると怖くてたまらなかったのだが、それでもこのまま逃げ続けることの方が怖かったので、意を決して向かうことにしたのだった。
放課後になり校舎裏に行くと既に彼は来ていたようだ。
彼は、私を見つけるなり嬉しそうに手を振って、出迎えてくれた。「来てくれてありがとうございます」私は無言で彼を見つめていると、彼は突然頭を下げて謝罪し始めた。「本当に申し訳ありませんでした!僕はただシャーロットさんに振り向いて欲しくて...............」
そう言って涙ぐむ彼に、私は呆れ果ててしまっていた。
(この人は一体何をしているんだろう.............?)そう思いつつも、話を聞くことにしたのだった。
それからしばらく彼と話をした後で、私は本題に入ることにした。「それで..............私を呼び出した理由は何でしょうか?」そう尋ねると彼は少し躊躇った後で口を開いた。「...........実は、僕とお付き合いをしてほしいんです」
私は反射的にお断りした。
なぜなら、今は仲がぎくしゃくしてしまっているけれど、私にはデューク殿下との婚約があるからだ。
「ごめんなさい.............あなたとはお付き合いできません」
私ははっきりと伝えた。すると、彼は驚いた表情を浮かべてから悲しげに俯いた。
(これで諦めてくれるかな?)そう思っていると、突然彼が顔を上げて私をじっと見つめてきたので、私は思わず一歩下がってしまった。
「そんな.................」
切なそうに佇む彼を見ると申し訳なさがたくさんだが、仕方のないことだ。
そう思うことにして踵を返そうとしたら、彼に後ろから抱きしめられた。
驚きすぎて悲鳴すらあげられなかった。
これからどうしようかと困惑していると、後ろから声が聞こえてきた。
「何をしている!」
すぐさまデューク殿下がクラスメイトを追い払ってくれた。
クラスメイトはあっという間に逃げて行き、この場には私とデューク殿下しかいなくなった。
その後、私はデューク殿下に手を引かれて人気のない場所に連れていかれた。「シャーロット、大丈夫か?」彼は心配そうな表情を浮かべながら尋ねてきたので私は慌てて首を縦に振った。すると彼は安心した様子を見せた後で真剣な眼差しを向けながら口を開いた。「君が無事で本当に良かった.............でも、君はもう少し警戒心を持ってくれ」そう言って私の手を握りしめる彼の手は少しだけ震えていたような気がした。
「ごめんなさい..................」と謝ることしか出来なかったが、彼が私の手を放そうとしないものだから少し恥ずかしくなって俯いてしまった。
その後、私はデューク殿下と共に寮まで戻ったのだが、その間ずっと手を繋いだままだった。
寮の前に着くと、彼は名残惜しそうに手を離してから、私に告げた。「何かあったらすぐに連絡してほしい。すぐかけつけるから。」そう言い残して、去って行く彼の後ろ姿を見ながら私は胸を撫で下ろしたのだった.............。
なんだか彼に助けられてばかりで、何か私もできることはないかと思ったが、その日は疲れていてそのまま眠りについてしまった。
それから数日後、私はいつも通り学園へと通うための準備をしていた。するとメイドの一人が慌てて私を呼びに来た。
「大変です!お嬢様!デューク殿下が倒れられました!」それを聞いて、私は急いで彼の元へ向かうことにした。
部屋に入ると、そこには医師がいるだけで他の人たちはいないようだ。
どうやら彼は風邪を引いたようで、数日の間体調が悪かったらしい。「僕は大丈夫だ、少し休む..............。」デューク殿下は弱々しく呟くと静かに目を閉じたので、私は彼が眠るまで傍にいることにしたのだった..............。
その後、デューク殿下が回復した時にはすっかり元気になっていたので安心した。
「よかった..............本当に心配したんですよ?」と私が言うと、彼は申し訳なさそうな表情で言った。「心配をかけてすまない.............」それを聞いた瞬間、彼がどこか遠くに行ってしまうような気がして、思わず彼の袖を掴んでしまった。
すると、彼は驚いた表情を浮かべた後で微笑んでから私の手を取った後、優しく抱き寄せてくれたのだった。
それからというもの、私は積極的にデューク殿下に関わっていくようになったのだが、そのせいでまた周りの人たちから嫉妬されたりしていたということを、後から知ったのだそうだ。
(でも、私はもう気にしないことにした。だって私の居場所はここだから...............)そう心の中で呟いた後、私はデューク殿下に微笑みかけたのだった。
それから時は過ぎていき、私は16歳の誕生日を迎えた。
その日は朝から両親や使用人たちが忙しそうに動き回っていたので不思議に思っていたのだが、夜になり皆が寝静まった頃を見計らって部屋を抜け出しある場所へと向かったのである。
そこには大きな扉があり、普段は鍵がかけられているはずなのだが、この日だけは鍵がかかっておらず中に入ることが出来たのである。
中に入るとそこには一面の花畑が広がっていた。「綺麗...............」思わず見惚れていると、後ろから声をかけられた。振り向くとそこに立っていたのはデューク殿下だった。「どうしてここに.............?」彼が驚きながら私に尋ねると私は微笑みながら答えた。「好奇心旺盛なシャーロットなら、ここに来るかなって思ってね」そう答えると、彼は少しだけ寂しそうな表情をしていたが、すぐに笑顔に戻った後、私を抱きしめてくれたから私も甘えさせてもらうことにしたのだ。
その後、私たちはしばらくの間抱きしめ合っていたのだが、不意に彼が口を開いた。
「..............もうそろそろ行かなければ」と。
私は、彼がどこか遠くに行ってしまうような気がして、慌てて口を開いた。「どこに行かれるのですか............?」すると彼は微笑みながら言った。「遠いところだよ、君が想像もしていないような場所さ」その言葉を聞いた瞬間、私の目からは自然と涙が溢れ出てしまった。(嫌だ、離れたくない。もっと一緒にいたいのに.............!)そう思うといても立ってもいられなくなり、彼を引き止めてしまったのだ。................すると、彼は優しく抱きしめてくれたので、私はしばらくの間、子供のように彼の胸の中で泣き続けたのだった。
しばらくした後で、落ち着きを取り戻した私は、彼から離れようとしたのだが、彼は私を強く抱きしめて離してくれなかった。「................ずっとここにいてくださいませんか?」私がそう言うと、彼は悲しそうな表情を浮かべながら、私の頭を撫でてくれた。「すまない..............それはできないんだ」と彼が言った後、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
その後、私達はしばらくの間無言のまま抱き合っていたが不意にデューク殿下が口を開いたのである。「例え君が僕のことを忘れてしまっても、僕は一生君を愛し続けるよ..............」その言葉を聞いた瞬間、私の目からは涙が溢れ出した。
(忘れるわけないじゃない...............!こんなにも好きなのに!)そう思うと、私は再び彼に抱きついてしまった。
それからどれくらい経ったのだろうか、私たちはお互いに離れようとはしなかった。
そして、いつの間にか夜が明け始めた頃に、ようやく私達は離れたのだった。
それから数日後のことだった、デューク殿下が突然姿を消したのである..............。
彼が行方不明になったと知った私は混乱していたが、同時に少し安堵もしていた。何故なら、これで彼の事を諦めることができると思ったからである。
(彼が幸せになってくれれば、それで良いんだ..............)そう思っていたはずなのに胸が苦しくて仕方なかった。
何故なのかは自分でも分からないけれど..............。
それから私は、今まで通り学園に通い続けた。しかし、周りの人達は皆私のことを心配してくれたり、優しく接してくれたりするようになっていたのだ。それは、まるで腫れ物扱いされているような気分だった...............だが、同時に嬉しかったのである。何故なら私に対して悪意を持って接してくる人がいないということは、私にとってありがたかったからだ。
しかし、それと同時に胸の中にはぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じ続けていたのである。
その寂しさを埋めようと、必死になって色々な人と関わってみることにしたのだが、一向に効果は現れなかった。
それどころかむしろ悪化してしまったくらいだ...............。
(どうしてなんだろう...............?)と思いながら、日々を過ごしていたある日のことだった、私はデューク殿下が行方不明になってから初めて王宮を訪れたのである。
すると、そこにはデューク殿下のお父様である、国王陛下の姿があった。「おお!シャーロットよく来たな!さあこっちにおいで!」
そう言われて手を引かれると、そのまま王室に通されたのである。
部屋に入ると、そこには王妃殿下もいたのだが、何故か笑顔ではなくどこか複雑な表情を浮かべていた。そして、国王陛下は私にこう言うのだ。
「実は君に頼みがあるんだ.............聞いてくれるかい?」と聞かれたので私は迷わず首を縦に振った。
すると彼は話を始めたのだ。「実は、デュークが行方不明になっていることは知っているね?」「はい...............」と私が答えると彼は続けて話してくれた。その内容は驚くべきものだったのである。なんと、デューク殿下は行方不明になったが、行方がわかったかもしれないというのだ。私は驚きのあまり言葉を失ってしまったが、国王陛下は私に謝罪の言葉を述べた後で続けて言った。
その内容というのはとても信じられないものだった。「君には本当に申し訳ないと思っている............だがどうか聞いてほしい...............」
そう言うと彼は語り始めたのだった。その話を聴いた瞬間、私は背筋が凍るような思いをしたのである。
それは私が想像していた以上のものだった。まさか、彼が遠い国で1人で暮らしているものだと思わなかったからだ。
それからというもの、私はデューク殿下のことを考える度に胸が苦しくなってしまっていた。
それはまるで、はじめて彼に恋をしていた時のような感覚だったけれど、同時に深い悲しみにも襲われていたのだった...............。
そんな日々を過ごしているうちに、気がつけば4年もの月日が流れてしまっていたようだ。
20歳になった頃、私のもとに一通の手紙が届いた。
それはデューク殿下からのものだった。内容は短く「君に会いたい」とだけ書かれていたのである。
それを見た瞬間、私の心臓はドキッとして高鳴り始めたのである。
それから数日後、私は指定された場所である王宮へと足を運んだのだった。
到着するとそこには彼が待っていたのだがその姿を見た瞬間私は息を呑んでしまった.............なぜなら、彼は昔の面影を残しながらも、立派な青年へと成長していたからである。だがどこか寂しげに見えるのは気のせいだろうか?
そう思いながら見つめていると彼は私に話しかけてきた。
「久しぶりですねシャーロット..............お元気にしていましたか?」そう言われて私は戸惑いながらも返事を返した。「はい、おかげさまで.............」私が精一杯そう答えると、彼は微笑み返してくれたがどこか悲しげな雰囲気を漂わせているように感じられたので、心配になってしまったのだ。すると、彼は突然私の手を摑みながらこう言ったのだ。
「君に伝えたいことがあるんだ.............」そう言われた瞬間、私の心臓はドキドキし始めたのである。
一体どんな話をされるのだろうか............?と思っていると、彼は口を開いた。そして驚くべき内容を口にしたのだった。
それは、彼が別の国へ旅立つことを決めたということと、もう二度と会えることはないということだったのだ。
それを聞いた瞬間、私は頭の中が真っ白になってしまったのだが、その後すぐに我に返り「どうしてですか!?」口早く尋ねると、彼はこう答えたのである。「僕にはやるべきことがあるんだ」と言った後に続けてこう言ったのだった
「君と一緒にいたら、きっと甘えてしまうからね..............」そう語った彼の目は悲しげに揺れていたのである。
そんな彼を見て私は何も言えなくなってしまい、ただ涙を流すことしかできなかった..............そして、彼は最後に言ったのだ。
「今まで君を忘れた日は1度もなかった。それほどに愛しているよ。」
と...............。その言葉を聞いた瞬間、私は再び涙を流すことになったのだが、今度は嬉し涙であったのだ。それから数分後、私たちは別れることになったのだが最後に彼は私に小さな箱を手渡したのだ。
その中には指輪が入っていたのである。
驚きながらも私がその指輪を受け取ると、彼は微笑んでからこう言ったのである。
「それは僕からの贈り物だよ」そう言われて私は泣きそうになったが何とか堪えることができたのだった。
そして、お互いにお別れの言葉を言い合って別れた後、私は王宮を後にしたのである。
数日後、私は彼にもらった指輪を眺めていたが、不意に涙が流れ出てしまったのである..............その理由は自分でも分からなかったのだが、何故か胸が締め付けられるような気持ちになったのだ。
(どうして................?)そう思いながらも、指輪を握りしめているとまた涙が溢れてきた。
私はどうしてこんなにも悲しいのか、そしてこの涙の意味すらも分からぬまま、しばらく泣き続けていたのだった。
それから数日後のことだった、私はとある男性から声をかけられたのである。
その男性は、以前私が訪ねた王宮で出会った人だったのだ。
驚きつつも話を伺うと、彼はこう言ったのである。「お久しぶりですねシャーロットさん...............あの時以来お会いしていませんでしたが、元気にしていましたか?」と尋ねられたので私は戸惑いながらも返事を返した。「ええ...............」と。すると、彼は微笑みながら言ったのだった。
「殿下が行ってしまわれてから、少し寂しいですよね」と。
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