第2話
それからしばらく経ってお父様が戻ってきたのだけれど、どうやら国王陛下からの使いの人に色々と根回しをして下さったみたいだった。
「大丈夫でしたか……?」
不安になって尋ねると、お父様は微笑みながら答えてくれた。
「ああ、上手くいったよ」
それを聞いて私は安堵のため息を漏らした。どうやらかなり無理をしてくださったみたいだったけれど……。
(ありがとうございます)
心の中でもう一度感謝を伝えておくことにした。おかげで少し心が軽くなった気がするから不思議だ。
(さて……これからどうしようかな?)
まさか、あの後パーティーで隣国の王子様と出会って、しかもその王子様が私に求愛してくるなんて思いもしなかったけれど........。
(はぁ...........最近とあんなことがあったのに、目まぐるしい日々だわ。)
私は小さくため息を吐くと窓の外へと視線を向けた。
外は既に日が沈みかけていて、夕日の光に照らされた街並みはとても幻想的で美しい光景だったけれど、私の心は沈んだままだった。
「レタ」
私はレタの名を呼ぶと、静かに近付いてくる彼女に笑いかけた。
ーーやっぱり、レタの隣にいることが1番安心するわ。
彼女が淹れてくれた出来たての紅茶をゆっくりと口に含みながら、私はそんなことを考えていた。
「どうかしされましたか?」
不思議そうな表情を浮かべて首を傾げるレタに、私は小さく首を横に振った。
「いえ.............何でもないわ」
(でも、本当に大丈夫かしら?)
私は不安を感じながら紅茶を口に運んだ。
最近色々とあって疲れているせいだろうか、なかなか眠りにつくことができない。
(はぁ.............)
私がもう一度ため息を吐いていると、不意に部屋のドアがノックされたので、返事をする前にドアが開かれた。
そして中に入ってきたのは、意外な人物だった。それは、父の部下である初老の男性だったのだが、彼は私を見ると微笑んで口を開いた。
「突然お伺いして申し訳ございません、シャーロットお嬢様」
彼はそう言いながら、恭しく頭を下げた後で再び口を開いた。
「実は、セバス様からの伝言を預かって参りましたのでお伝えに参りました」
(お父様からの..............?)私は思わず身構えてしまった。一体何の用だろうか?
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
恐る恐る問いかけると、男性はゆっくりと頷いてから口を開いた。
「はい.............実は、隣国の王子であるデューク殿下のことで、お話があるそうです」
(やっぱり..............)嫌な予感が的中してしまった。
まず、なぜ隣国の王子様が私を好きになることがよくわからない。そもそも、パーティーの日の今まで会ったことすらないはずなのに..............。
(それに、どうしてお父様がわざわざ私に伝えたのかしら...............?)
疑問は尽きないが、今は目の前の問題を解決しなくては。
「わかりました、お聞きします」
私は覚悟を決めると男性に向かって小さく頷いた。すると彼はホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。
(さてと............どんなお話かしら?)
紅茶を飲み干したあと、私はお父様が待つ応接室まで向かった。そしてノックをすると、中から聞き慣れた声と共に扉が開かれる。
「久しぶりだね、シャーロット」
そこには笑顔を浮かべたお父様の姿があった。彼は私にソファーに座るよう促してから自分も対面のソファーに腰を下ろした。
(久しぶりって...........1週間ぶりくらいじゃないかしら...........?)
心の中で突っ込みを入れながらも、私は頷いて見せた。すると、彼は少し申し訳なさそうな表情を浮かべてから口を開いた。
「それで.............シャーロットはどこまで話を聞いているんだい?」
その問いかけに私は小さく首を傾げた。
(どこまでって言われてもね.............)
正直なところ、全くと言っていいほど詳しい話は知らない。唯一知っていることといえば彼が隣国の王子様であるということくらいだ。
私が無言のままでいると、お父様は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「実はデューク殿下から、君に求婚したいという申し出が来たんだ」
(えっ!?)予想外の言葉に私は目を見開いてしまった。
(本当に?)信じられないという気持ちでお父様の顔を見つめ返すと彼は小さく頷いて見せた。どうやら本当のことらしい。しかしまさかそこまで話が進んでいたとは思いもしなかったので驚きを隠せなかった。
「それで.............お父様はなんてお返事されたのですか?」
恐る恐る尋ねると、お父様は少し困った表情を浮かべてから口を開いた。
「いや、まだ返事はしていないんだ」
(え...........?)私は思わず耳を疑った。まさか断るつもりなのだろうか? いや、でもさすがにそんなはずはないはずだよね.............だって、隣国との関係が拗れるかもしれないのに。
しかし私の考えとは裏腹に彼は深刻な表情を浮かべていた。そしてゆっくりと口を開くと静かな声で話し始めた。それは私が想像していたよりもずっと重いものだったのだが..............。
(あぁ.............頭が痛いわ)
私は心の中で愚痴りながらも、いつも通りの笑顔を貼り付けながら愛想よく対応を続けた。今日は父からの呼び出しで王宮に向かうことになっていたのだが、まさかこんなにも早く彼と顔を合わせることになるとは思いもしなかった。
「すまないね、急に呼び出したりして」「いえ...............。」
私は、小さく首を横に振ってから彼の顔を見つめ返した。相変わらず何を考えているのかよく分からないけれど、少なくとも悪い人ではなさそうだとは思った。
(でも、本当にどうして彼は私に求婚してきたのかな?)
お父様が言うにはデューク殿下は私のことを好きになってくれたというけれど、どう考えても私には心当たりがないのだ。
もちろん、嫌われるよりは好かれた方が嬉しいに決まっているが、それでも理由が分からないと気持ちが悪いと思ってしまうのは仕方ないことだろう。
(はぁ..............)
私は小さくため息を吐くと目の前にある紅茶を口に含んだ。そして気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返していくうちに徐々に落ち着きを取り戻していった。
「ところでシャーロット嬢」
そんなことを考えていたら不意に声をかけられたので私はビクッと肩を震わせた後に慌てて顔を上げた。すると目の前には心配そうな表情を浮かべた彼が立っていたので、私は慌てて取り繕った笑顔を浮かべた。
「どうかしましたか?」
尋ねると彼は苦笑いを浮かべながら答えた。
「いや.............随分と顔色が悪いようだけれど大丈夫かい?」
疑問に思いつつ自分の頬に触れると、確かにいつもよりも体温が低いような気がした。おそらく寝不足のせいだろうと思い、私は小さく首を横に振ってみせた。
すると、彼は少し安堵したような表情を見せた後で再び口を開いた。
「それなら良かった.............」そう言って彼はホッとしたように胸を撫で下ろすと言葉を続けた。
その表情はどこか優しげで思わずドキッとしてしまうほどだった。
「今日は君に大事な話があるんだ」
(何だろう.............?)私は、ドキドキしながらも彼の言葉を待った。そしてしばらくの間沈黙が続いた後でようやく彼が口を開いた。「実は、君に一目惚れしてしまったんだ。.............俺と結婚してくれないか?」
(え?)一瞬、何を言われたのか理解できなかった私は呆然とその場に立ち尽くしてしまった。しかしすぐに我に返ると慌てて首を横に振った。
「そ、それは無理です!」
私の言葉を聞いてデューク殿下は一瞬目を見開いた後に寂しげに笑った後で言葉を続けた。「……どうしてだい?君は俺のことが嫌いなのかい?」
悲しそうに呟く彼の姿を見て胸がチクリと痛んだが、それでも私の答えは変わらなかった。
「いいえ.............別に嫌いというわけではありません」
(でも好きかと聞かれたら分からないとしか答えられないのよね............)
そんなことを考えていたせいで黙り込んでしまった私に、デューク殿下は苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。
「ならせめて友達になってくれないか?それならいいだろう?」
(はぁ.............?)私は心の中でため息を吐いた後で小さく首を縦に振った。
「まぁ..........お友達からなら.............」
私がそう答えると彼は嬉しそうに微笑みを見せた後で口を開いた。「ありがとう、これからよろしく頼むよ」
こうして私とデューク殿下は友達になったのだった。
(はぁ...............なんだか疲れたわ)
私は自室に戻るとベッドに倒れ込んだ。そしてそのまま瞼を閉じると深い眠りへと落ちていったのだった。それから数時間後、目を覚ました時にはすっかり日が沈んでいたようで窓の外からは月明かりだけが差し込んでいた。
時計を見ると既に午後11時を過ぎていることが分かったのでそろそろ寝なければと思い体を横に向けると、突然部屋の扉が開かれたので私は驚いてしまった。
(誰かしら............?)
恐る恐る視線を向けるとそこに立っていたのはお父様だった。
「おや、まだ起きていたのかい?」お父様は意外そうに尋ねてきた。「早く寝ないと明日起きられなくなってしまうよ」そう言って彼は優しく微笑むと私の頭を撫でてくれた。その手はとても温かくて心地よかったので思わず目を細めていると突然お父様が真剣な表情になったので私は首を傾げた。
「シャーロット、君に話があるんだ」そう言われて不安になった私が体を強張らせていると、彼はゆっくりと口を開いた。「..............デューク殿下とは、どんな感じになったのかい?」
心配そうに見つめてくるお父様に、私は安心させようと微笑んだ。
「ええ、お友達になりましたよ。」
私の言葉を聞いた途端、お父様は安心したように胸を撫で下ろした後でゆっくりと口を開いた。「そうか..............それなら良かった」
そう言うと彼はホッとしたような表情を浮かべた後で小さく微笑みを見せた。「シャーロット、私は君の幸せを誰よりも願っているんだ。だから自分の気持ちに素直になりなさい」
その言葉に私は思わずドキッとしてしまったが、それでもお父様の言葉に応えることはできなかった。
(だって.............本当に彼のことが好きかどうかまだ分からないんだもの)
心の中で言い訳していると、お父様は私に温かいホットミルクを渡した後、部屋を出ていかれた。
その背中を見送った後で、私は温かいホットミルクを口に含むと再び眠りについたのだった。
それから数日経ったある日のこと、デューク殿下から一緒にピクニックに行かないかと誘われたので私は悩んだ末に承諾することにした。
(別に断る理由もないしね..............)
そんなことを考えながら身支度を整えるために部屋へ戻ると、そこには何故かすでに準備を終えたデューク殿下が待っていた。彼は私を見ると小さく微笑んで見せた後で口を開いた。「おはよう、シャーロット」
爽やかな笑顔を浮かべている彼に対して、私も笑顔を浮かべて返したのだが内心では少しワクワクしている自分がいた。
(あれ.............どうしてかしら?)
今までこんな気持ちになったことは一度もなかったので、不思議に思った私は首を傾げてしまった。しかしいくら考えても答えは見つからなかったので、仕方なく諦めてデューク殿下に話しかけた。「おはようございます、デューク殿下」
私が挨拶を返すと彼は嬉しそうに笑みを浮かべてから口を開いた。「それじゃあ行こうか」そして自然な動作で私の手を取り歩き出したのだが何故か全く嫌という感情は湧いてこなかった。むしろ心地よいと感じている自分に驚いてしまったくらいである。「..............どうかしたのかい?」
不思議そうにこちらを見る彼に、私は慌てて首を横に振ってみせた。
「いいえ、何でもありませんわ」私はそう言うと、彼の手をギュッと握った。
すると、彼も優しく握り返してくれたので、面白くなってつい口元を緩めてしまったのだった。
その後私たちは王都の近くにある丘までやってきたのだが、景色は最高で空気も澄んでいたのでとても気持ちが良かった。そこで私たちは昼食を食べることにしたのだが.............その時も、彼は私に色々な話を聞かせてくれた。
彼の話はどれも興味深くて、聞き入ってしまうほどだったが一つだけ気になったことがあったのだ。
それは、彼がいつも私のことを気にかけてくれているということだった。
例えば、私が疲れていたりするとすぐに気づいて休憩しようと言ってくれたり、私の好きなものを覚えていて用意してくれたりするのだ。
(なんだか、少し申し訳ないな............)
そう思ってしまった私は、思い切って尋ねてみることにした。「................どうして私なんかにそこまでしてくださるのですか?」
すると彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後でフッと笑みをこぼしてから答えてくれた。「そんなの簡単だよ。君の笑顔が見たいからさ」
彼の言葉を聞いた途端、私の顔は真っ赤になってしまった気がしたが必死に平静を装って聞き返した。「そ、それは一体どういう意味なのですか?」
すると、彼は少し照れ臭そうにしながらも、ハッキリとした口調で答えてくれた。「そのままの意味だよ。君が好きだから、ずっと可愛らしい笑顔で笑ってほしいんだ」
その言葉を聞いた途端、私の顔はますます熱を持ち始めた気がしたので、思わず両手で顔を隠してしまった。「...............ごめんなさい!」そして、消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にすると、彼の前から逃げるように駆け出すのだった。
(ああもう!どうして私ったら、あんな態度を取っちゃったの?)
自室に戻った私は、ベッドの上に倒れ込むと、枕に顔を埋めたまま足をバタバタさせていた。「もう!どうして私がこんな気持ちにならなきゃいけないのよ〜!!」
そう叫んだ後で、私は大きくため息を吐いた後でゆっくりと顔を上げた。
(でも................やっぱり好きかどうか、まだ分からないわ)
そんなことを思いながら、窓の外に目を向けると既に日は沈み始めており、空は綺麗なオレンジ色に染まっていた。その景色を眺めながらぼんやりと考え事をしていると不意に扉をノックする音が聞こえてきたので慌てて振り返った後、返事を返した。
すると扉が開き、部屋に入ってきたのはお母様だった。
「シャーロット」彼女は、真剣な面持ちで私の名前を呼ぶと手招きをした。「こっちにおいで」
私は不思議に思いながらも、お母様の方へ歩み寄ると隣へと腰掛けた。すると突然お母様が私をギュッと抱きしめてきた為、驚いて固まってしまったが彼女は何も言わずにただ私の頭を撫でてくれただけだった。(ああ...............落ち着くわ)
お母様の温もりを感じているうちに、少しずつ落ち着いてきた私は、小さく深呼吸をしてから口を開いた。「................お母様?」すると彼女は優しい声で話しかけてきた。「シャーロット、あなたに聞きたいことがあるのだけれど................いいかしら?」
私は小さく首を縦に振ってみせると静かに耳を傾けた。「あなた、デューク殿下のことが好きなの?」
その問いに私の心臓は大きく跳ね上がったが、それでもどうにか平静を装って答えることができた。「...............分かりません」そう答えると同時にお母様は私を抱く腕に力を込めた後に言葉を続けた。
「自分の気持ちに素直になってもいいのよ。あなたの気持ちはあなただけのものなのよ?」「でも................」
私はそれ以上何も言えずに俯いてしまった。するとお母様は小さくため息を吐くと再び口を開いた。「じゃあ、質問を変えましょうか..............あなたはデューク殿下と一緒にいて楽しいと感じたことはあるかしら?」
その質問に私はしばらく悩んだ後で小さく呟いた。「................あります」「だったら、それが答えではなくて?」
その言葉にハッとした私は慌てて顔を上げると真っ直ぐにお母様を見つめた。
そして微笑みながら見つめ返してくれている彼女の目を見つめながら、思ったことを素直に口にした。
「..............私、デューク殿下のことが好きなんでしょうか」
私が自分の気持ちを認めると、お母様は嬉しそうな笑顔を見せてくれた後で口を開いた。「ようやく素直になれたわね、シャーロット」
お母様の言葉を聞いた途端、私は再び泣きそうになったが今度は堪えることができた。それからしばらくの間沈黙が続いた後、突然部屋の扉が開かれたので驚いて振り返るとそこにはお父様の姿があった。「話は聞かせてもらったよ................シャーロット」彼はそう言うとゆっくりと私の方へと歩み寄ってきた。そして優しく抱きしめてくれた後で頭を撫でてくれた。「よく言えたね、偉いぞ」そう言って笑いかけてくれるお父様を見ているうちに、私は今まで我慢していた感情が溢れ出してしまい涙を止めることができなくなってしまった。
そんな私を、お父様は何も言わずにただ優しく抱きしめていてくれた。
それからしばらくして泣き止んだ後で私はお母様からもらったハンカチで涙を拭い、お父様から離れて恥ずかしそうに俯いた後、顔を上げて口を開いた。「................お父様」すると彼は微笑みながら私の頭を再び撫でてくれたので私は嬉しくなって微笑んだ。「やっと笑ってくれたね、シャーロット」彼は嬉しそうに目を細めると私の額にそっとキスをした後で口を開いた。
「さあ、今日は夜も遅いしゆっくり寝なさい」そう言うと、彼は立ち上がって部屋から出ていった。
残された私は、ベッドに潜り込むと目を閉じた。すると、すぐに睡魔に襲われて意識を失う前に思ったのは、デューク殿下に会いたいという想いだった。
(明日になったら会いに行こう。)そう心に決めながら私は深い眠りへと落ちていくのだった。
次の日、早速お城までやってきた私は門番の人に事情を説明すると、すぐに中に通してくれた。そしてそのまままっすぐ彼の部屋へと向かったのだが..............その途中で、数人の兵士達が慌てた様子で私の方にやってきたかと思うと、いきなり手首を掴んでどこかへと連れて行こうとし始めた。
驚いて抵抗するが力で敵うはずもなく、連れていかれるがままになってしまう。「ちょっと待ってください!一体どういうことですか?」私が叫ぶように尋ねると、兵士の一人が口を開いた。「大変申し訳ございません................しかし、王命なのでご了承ください」私はその言葉を聞いた瞬間嫌な予感がしたが、それでも一縷の望みをかけて尋ねた。「それは.............デューク殿下に会わせられないということですか?」すると兵士は申し訳なさそうに顔を伏せた後で静かに口を開いた。「はい、そういうことになります。王様からの直々の命なので、すみません.............。」
そう言われながら、お城の前に連れていかれた。そこには馬車があり、中には見覚えのある人物が座っていた。それは、デューク殿下だった。彼は私を見るなり驚いた表情を浮かべた後で優しく微笑んだ。「おはよう、シャーロット」「..............おはようございます」
私は戸惑いながらも挨拶を返すと彼は急いで馬車から降りた。
そして、後ろにいる兵士達を見つめた。
「彼女は僕の大切な客人だ。」
デューク殿下は隣にいる兵士に向かってそう言った。「しかし................」
彼は渋っていたが、他の兵士たちも彼の意見に賛成してくれたので、渋々引き下がってくれた。私はホッと胸を撫で下ろしていると、デューク殿下尋ねてきた。「どうしてここに?」
私は少し悩んだ後で正直に答えることにした。「..............会いたかったんです」そう言うと、彼の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていくのがわかった。その姿を見た私も恥ずかしくなってきて顔を逸らした。すると彼女が恐る恐るといった感じで話しかけてきた。「あの..............昨日のことはごめんなさい」私が黙っていると彼は続けて話し始めた。
「あなたに不快な思いをさせてしまったことは心から謝罪します。本当に申し訳なかったです」
彼は深々と頭を下げた後で顔を上げ、まっすぐに私を見つめてきた。その瞳からは真剣な想いが伝わってきたので、私は何も言えなくなってしまった。すると今度は私の両手を取ると真剣な表情のまま口を開いた。「それでも、僕はあなたと一緒にいたいと思っています」
彼の真剣な眼差しに見つめられた私は鼓動が速くなるのを感じながらも黙って話を聞いていた。すると彼はさらに言葉を続けた。「これからの人生、ずっとあなたの側にいたいです。どうか、一緒にいてくださいませんか?」
彼はそう言うと私の手をギュッと握りしめた。「愛しています、シャーロット」その言葉を聞いた途端、私の目からは自然と涙が流れ落ちていった。そして泣きながらも小さく首を縦に振ると精一杯の笑顔を浮かべながら答えた。
「私もあなたのことが大好きです」その言葉を聞き終えると同時に彼は私を優しく抱きしめてくれたので、私もそっと彼の背中へと腕を回した。
その後私たちは、馬車の中でお互いに見つめ合いながら幸せなひと時を過ごした後でお城の中へと入っていく予定だったのだが..............その途中、突然目の前に現れた人物を見て私は驚いた。それは昨日私に話しかけてきた男性だったからだ。
彼は私たちの姿を見つけるなり、こちらに駆け寄ってくると口を開いた。「待ってくれ!話はまだ終わっていないぞ!」私は状況が理解できずに混乱していたが、デューク殿下はすぐに冷静になられて口を開いた。「何の御用でしょうか?」彼の口調は普段よりも少し冷たいものだったが、気にせずに男性は続けた。「俺は君に決闘を申し込む!!」
いきなりそんなことを言われたデューク殿下は、少し困惑している様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻してから答えた。「申し訳ありませんが、それは出来かねます」
そういって立ち去ろうとしたのだったが、男性はしつこく食い下がってきた。「どうしてなんだ?俺の何が気に入らないんだ?」彼は必死になって訴えかけてきたが、それでもデューク殿下の態度は変わらなかった。そんな様子を見ていた私は段々と苛立ってきたこともあり、思わず口を開いてしまった。「やめてください、デューク殿下は今私と一緒にいるんです」私が大きな声で言うと男性は驚いたように目を丸くしていたが、すぐに落ち着きを取り戻してから口を開いた。「これは失礼した...............それではまた後日」
それだけ言うと、彼はその場から去っていった。
その後私とデューク殿下は馬車に乗ってお城へと戻ったのだが、私は先程の男性のことが気になって仕方がなかった。
(一体誰なんだろう?)私が考え込んでいると突然隣に座っていた彼が口を開いた。「大丈夫ですよ..............何があっても、僕が守りますから」彼は優しく微笑むと私の手の上に自分の手を重ねた後で口を開いた。「これからはずっと一緒にいましょうね」
こうしてデューク殿下との幸せな時間は、過ぎていくのだった。
私がデューク殿下と結ばれてから数ヶ月後、私たちは王都で開かれている市井のイベントに参加していた。「わぁ.............っすごい賑わいね!」
人混みの中を歩きながら目を輝かせながら楽しそうに微笑んでいる彼女を見た周囲の人たちは、思わず見惚れてしまうほどだった。なぜなら今のシャーロットは普段の令嬢らしい雰囲気とは違い、お淑やかさの中にも可愛らしさがあるような格好をしていたからだ。
フリルのついた白いブラウスにピンクのスカートを合わせており、さらに頭にはリボンのついた麦わら帽子を被っている。その姿はまるで童話に出てくるような愛らしい少女そのものだった。
(シャーロットの魅力を引き出すことができて良かった)とデューク殿下は心の中で思いながら彼女の隣を歩いていた。
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