国王陛下の名代だと言う方が訪ねてきまして
スカイ
第1話
「シャーロットお嬢様...........、それ何回目ですか?」
レタが私の言葉に呆れ顔で返す。私は冷め切った紅茶の入ったカップを手に取り、それを口元に持っていきながら小さく肩をすくめた。
「だって、仕方なかったとはいえ、あること無いこと噂をされて、断罪されるのよ? その上勘違いした殿下に、婚約破棄までされて...........こんなにひどい話はないわ」
「............まぁ、確かにそうですけど.......。」
私がそう言うと、レタは何とも複雑そうな顔をしてこちらを見た。
私が今いるのは、王都から少し離れたところにある避暑地の別荘だ。
父は現宰相で、今はかなり忙しい身ではあるけれど、それでも仕事の合間にこうして休暇を取っては家族で過ごす時間をくれる。
そんな父がこの別荘を提供してくれたのだが、使用人の数は最低限にするというこだわりっぷりだ。
................まぁ確かに人数は少ない方がこぢんまりとして過ごしやすいし、何より身の回りのことはほとんど自分でやらなければいけない分気楽だという利点があるのだけれど。
そして、その避暑地には避暑シーズンではない時はレタがいつもついてきてくれている。
私も最初は、お父様やお母様に休暇をとってもらおうと思ったのだけれど、二人とも「休んできなさい」の一点張りだった。
きっと私がいなかったら、もっと仕事の時間も長くて大変なのだろうと思うと、それ以上我儘を言うのは憚られた。
それに、レタと二人きりで過ごすというのも新鮮で楽しかったので、私としては満足している。
使用人もいるとはいえ、私と二人しかいない状況でずっと過ごしていたらこうはならないだろう。
「.............それにしても、もう聞き飽きました。」
レタが溜息混じりに言うので、私は苦笑しながらカップを置いた。
確かにレタは、私が愚痴を零す度に付き合ってくれている気がする。
いや、愚痴と言うよりは独り言の方が正しいのかもしれない。
なんだかんだ彼女には感謝してもしきれないのだ。
「.............でもやっぱり、見知らぬご令嬢達にそう噂されているのは嫌じゃない?」
私が言うと、レタは困ったように笑いながら頷く。そして少しだけ考えたような素振りをしてから、口を開いた。
「そうですねぇ............まぁでも、悪役令嬢という噂は、お嬢様にお似合いだと思いませんが。」
「..............えっ?」
「シャーロットお嬢様は素敵な方なのですから、自信を持ってくださいね」
それから、しばらくの間は平穏な日々が続いた。
私とレタは避暑地でゆっくりと過ごしながら、毎日読書に耽って過ごしていた。
読書は好きだったので、特に苦痛でも退屈でもなかったのだけれど、そろそろ外に出てみたいと思うようになっていた頃だった。
.....................そんな折に、事件は起きた。
「お嬢様! 大変です!」
いつも通り本を読んでいたところに、慌てた様子で部屋に飛び込んできたのはレタだった。
いつもは冷静な彼女がここまで取り乱すのだからきっと何かあったのだろうと思い本を閉じた。
「何があったの?」
私が尋ねると、レタは息を整えてからこちらを見た。そして一度深呼吸をしてから口を開いた。
「実は..............本日、王宮から使者が来たんです」
「............王宮?」
私が首を傾げると、レタがゆっくりと頷いた。それからもう一度息を吐いてから続ける。
「お嬢様に、ぜひお話があると」
「話..............?」
私は、思わず顔を顰めた。
わざわざ私に話をするために、使者を送ってくるような相手は思い浮かばなかったからだ。
恐らく、私を陥れたい誰かが仕組んだ罠か何かだろうと疑ってしまった。
だって、国王陛下のいる王宮から使者が来るなんて、一介の貴族令嬢に対してあまりにも不自然だ。
「そう身構えなくても大丈夫ですよ。................きっと、お嬢様は悪いようにはなりませんから」
私が不安そうな顔をしていたからか、レタは私を安心させるように言った。けれど私にはその言葉が余計に不安に感じられて仕方がなかった。
(一体誰が................?)
私は緊張でドキドキと音を立てる心臓のあたりを押さえながら使者を待った。
それからしばらくすると屋敷の門の前に一台の馬車が止まり、そこから降りてきた執事風の男性がこちらに向かって歩いてきた。
そして私の前に来ると恭しく頭を下げてから口を開く。
「お初にお目にかかります、シャーロット様」
「...............ええ、は、初めまして」
私が応えると、執事風の男性は笑みを浮かべたままゆっくりと顔を上げる。それから眼鏡のブリッジ部分に触れながら続けた。
「私は国王陛下の名代として参りました」
「..............え?」
(国王陛下の............?)
私は予想外の答えに一瞬固まってしまったが、すぐに我に返ると慌ててその場に跪いた。するとそれを見た男性は少し驚いたような表情を見せた後で笑う
「あ、あの...........」
私が困惑していると、男性はゆっくりと近付いてきた。そして私の目の前で立ち止まると、私を見下ろして言った。
「申し訳ありませんが.............お立ちいただけますか?」
「え..............」
私は戸惑ったものの、言われたとおりに立ち上がった。すると男性は私の手を取ってそっと口付けた。突然のことに私は戸惑いを隠せなかったのだけれど、同時に一気に顔が熱くなるのを感じていた。
(な、なにをするの、この方............!)
動揺して固まっている私を見た後、彼は柔らかく微笑んで見せた。それからまた優雅な動作で一礼する。
「どうぞ、お見知り置きを」
それから彼は改めて私を見ると、わざとらしく首を傾げた。
「それにしても............まさかこんなに愛らしい方だとは思いませんでした」
(えっ............?)
彼の言葉に思わずドキッとしてしまった。だがすぐにハッと我に返って首を横に振る。
(いけないわ! 私には大切なメイドのレタがいるんだもの.............!ずっとそばにいると誓ったのよ!)
そんな私の様子に気づいたのかいないのか、彼は小さく笑うと言った。
「それでは詳しいお話は後程............貴女と婚約について、一緒にいたしましょう」
「へ、............?」
(今、なんて.............?婚約?)
私が聞き返すよりも先に、彼はもう一度お辞儀をすると馬車に乗って去って行ってしまった。
私は呆然としたままその場に立ち尽くしていたが、レタに肩を叩かれてようやく我に返る。
「大丈夫ですか?お嬢様」
心配そうにこちらを見つめてくるレタを見て少し安心したものの、まだ心臓がドキドキしていた。
顔もまだ熱いままだし.........一体どうしてしまったのだろうか。
(私ったら.........何を動揺しているの、しっかりしないと!)
私は自分の両頬を軽く叩くと、気合いを入れ直した。そして大きく深呼吸をした後でレタの方を振り返る。
「ええ、大丈夫よ........ありがとう」
私が言うと、レタはホッとしたような表情を見せた後で微笑んでくれた。
そしてまたいつもの日常が始まるーー、わけもなく。
(.........って違う!)
ハッと我に返った私は思わず頭を抱えた。
(ちょっと何さっきの方は.........!婚約のお話ってどういうこと!?)
確かにそういった話は過去に何度かあったけれど、あれは全て断ってきたはずだ。
それなのに、どうして今更になって婚約者としていらっしゃるだなんて.........。
「お嬢様?」
レタが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいることに気づいて、私は慌てて首を横に振った。
それから深呼吸をして自分を落ち着かせると、ゆっくりと口を開く。
「いいえ、なんでもないわ」
私が言うと、彼女はまだ少し不安そうな表情を浮かべながらもそれ以上追及はしてこなかった。
そしてふと思い出したように言った。
「あ、そういえばお嬢様........この後お時間ありますか?」
「え?ええ、」
突然のことに戸惑いつつも頷くと、レタは嬉しそうに笑って言った。
「良かったです、それなら一緒にお茶でもどうですか? 疲れたでしょう?一息つきましょう。」
「もちろんよ」
断る理由もないし、むしろありがたいくらいだ
。それに今は少しでも気を紛らわせたかったから、私は笑顔で答えたのだった。
それからレタの淹れてくれた紅茶を飲みながら、他愛のない話をする。
「シャーロットお嬢様.......その、婚約のお話とか出ましたか...........?」
しばらく経った後、レタがおずおずといった様子で聞いてきたので私は首を縦に振った。
.........レタは毎回勘が鋭いのよね。
隠し事をしようとしても、彼女には全く通用しないのだ。
「まあ、そうね.......。」
(確かお話は何度かあったけれど、お父様が全部断ってくれていたのよね。)
婚約話を持ってくるお相手は、大概お父様がお話を聞いて、追い払ってくれた。
だからこそ、私は今まで特に深く考えずに生きてきたのだ。
まさか、ここに来てこんな話が出るだなんて、思いもしなかったので驚きしかない。
「お嬢様は...........その、どうされるおつもりですか?」
レタは少し不安げな表情で尋ねてきたけれど、私に答えられるはずもなかった。
そもそもこの婚約の話自体意味不明なのだ。
どうしてこんな話が出てきたのかすら分からないのに答えようもないだろう。
「分からないわ...........まだ、お相手の顔しか見ていないんだもの」
「そうですよね...........」
レタもそれは分かっているらしく、困ったように眉を下げて小さく笑った。それから少し考えてから口を開く。
「..........もしお嬢様がお嫌でしたら、私がなんとかしましょうか?」
私はレタの言葉に驚いてしまった。
確かに彼女が本気を出せば大抵のことはどうにか出来てしまうだろうけれど、さすがにそれは申し訳ない気がする。
大切である彼女の身に何かあったら、私が悔やんでも悔やみきれないだろう。
「いえ..........大丈夫よ、ありがとう」
(...........でも)
いきなりあんなことを言われても困るというのが、正直な感想だ。
それに、どういった相手なのかも分からないまま婚約を結ぶだなんて、考えられなかった。
せめて人物像くらいは知っておきたいところだけれど..........。
「あ........」
そこで私は妙案を思いついた。
そうだ、お父様に相談すれば良いんだわ!
お父様は陛下とも親しいのだから、きっと力になってくれるはずだし、上手くいけばお相手の方についてもっと詳しく知るチャンスかもしれない。
(そうと決まれば、早速.........!)
私は椅子から思いきり立ち上がると、レタに言った。
「ちょっとお父様のところに行ってくるわね、紅茶ありがとう!美味しかったわ!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
レタに笑顔で見送られながら急いで部屋を出ると、私は廊下を駆け足で進んでいった。
そしてそのままお父様の執務室へと向かう。
コンコンッというノックの後、中から返事が聞こえてきたのでゆっくりと扉を開いた。
するとそこには驚いた顔をしたお父様が立っていた。
「どうしたんだい?そんなに慌てて........」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
私は少し恥ずかしくなりながらも素直に謝罪した。それから改めて、背筋を伸ばして口を開く。
「あ、あの.........お父様に相談したいことがあるのですが、よろしいですか?」
するとお父様はもちろんだと言うように頷いてくれた。
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます!」
私はホッと胸を撫で下ろすと、部屋の中に入っていった。
そして近くにあったふかふかのソファに腰掛けると、早速本題に入ることにする。
「実は...........」
私は自分の身に起きたことを全て話した。
するとお父様は難しげな表情でしばらく考え込んだ後で、徐に言葉を紡いだ。
「ふむ.........シャーロットがいきなりそんなことを言われるとはね.........」
(やっぱり........迷惑かしら)
そんなことを考えていると、不意にお父様が真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
私は驚いて息を飲む。
「シャーロット、一つ確認をしても?」
「はい..........?」
(なんだろう..........。)
緊張しながら返事をすると、お父様は一呼吸置いてから言った。
「シャーロットは、その婚約を受ける気はあるのかい?」
その言葉にドキッとしたけれど、すぐに首を横に振った。
もちろん受ける気はないし、そもそも相手の顔しか見たことがないのだから決めることも出来ない。
それにお相手はあの国王陛下なのだ。
そんなお相手と結婚だなんて、考えられるはずもなかった。
「ありません」
私がきっぱりと言うと、お父様は少しホッとしたような表情を見せた後で小さく笑った。そして私の頭を優しく撫でてくれる。
「なら安心だ」
「..................え?」
(それにしても.........一体どういうことなのかしら?)
私は自室で一人考えていた。
国王陛下の名代としてやってきたのは間違いなく男性だった。
しかもかなり端正な顔立ちで、それでいて優しげな表情をしている人物だった。
(ただ、あの方本物だと言う確証もないわ.....名代として成りすましている誰かかもしれないし。)
私にはどうしても信じられなかった。
それに名代だと言って私の前に現れた以上は何かしらの目的があったはずだし..............とにかく謎が多すぎるのだ。
「お嬢様?」
物思いに耽っていると、不意に後ろから声をかけられたので私はビクッと肩を震わせた後で振り返った。
するとそこにはレタの姿があったので、ホッと安堵の息を吐く。
「レタ...........」
私が呟くように名前を呼ぶと、彼女はいつものように微笑みを浮かべながら口を開いた。
「どうかなされたのですか? 先程からずっと考え込んでおられるようですが...........」
彼女の問いかけに私は首を横に振る。
さすがに国王陛下の名代を名乗る男性が、私の婚約者としてやって来ただなんて言えるはずがないからだ。
だから私は適当に誤魔化すことにした。
「ちょっと気になることがあっただけよ」
(嘘ではないはず.........よね?)
私がそう言うと、レタはそれ以上追及してくることはなく小さく頷いた。
それから少し心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「そうですか..........もし何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいね」
「ええ、ありがとう」
私はお礼を言ってから再び思考の海へと潜っていった。
しかしいくら考えても答えが見つかるはずもなく..........結局、その日はそのまま眠りにつくことになってしまったのだった。
(うぅ........彼の真意が全然分からないわ)
私は自分の部屋に戻ってから頭を抱えていた。
もちろん彼の正体についてである。
あれから数日が経過したけれど、未だに何も分かっていないのだ。
(でも私が直接聞くのもあれよね...........お父様もお忙しそうだし)
さすがに自分からお相手の情報を聞き出すのはどうかと思ってしまったので、とりあえずはお父様に任せている。
「お嬢様?」
その時、ドアの向こうから声が聞こえてきたので私はそちらに目を向けた。
どうやらレタのようだ。
「何かしら?」
私が返事をするとドアが開いてレタが姿を見せる。そしていつものように優しい微笑みを浮かべながら言った。
「そろそろお休みのお時間ですが、お眠りになられますか?」
(もうそんな時間なのね)
私は窓の外を見ると、既に外は真っ暗になっていたことに気付くと同時に小さくため息を吐いた。
そういえばここ最近はずっと気を張りっぱなしで、あまり眠れていなかったことを思い出すと、そのままベッドに向かうことにした。
「分かったわ.........」
私が返事をすると、レタは何も言わずに私の着替えを手伝ってくれる。
私はされるがままになりながらも、頭の中ではずっと考え事をしていたのだった。
(どうすればいいのかしら.........?)
そんなことを考えつつ、私はゆっくりと目を閉じたのだった。
(どういうことかしら..............?)
私が首を傾げると、お父様は微笑みながら言った。
「シャーロットの気持ちは分かったよ。あとは私の方でどうにかするから安心していい」
「本当ですか.............!?」
(嬉しい..............!)
私は思わず笑顔になってしまったが、すぐにハッとして表情を引き締め直した。だが嬉しさを隠しきれず口元が緩んでしまっている気がする。
「ありがとうございます..........!」
私がお礼を言うと、お父様は優しく微笑んでくれた。そして少し考え込むような仕草を見せた後で口を開く。
「その婚約者..............国王陛下の名代を名乗る人物が来たんだよね?」
「ええ.............」
(確かにそう言っていたけれど..............真偽は不明ね..............)
私は頷くと、お父様は少し困ったように眉根を寄せた後に続けた。
「..........そうか........」
(一体どういうことなのかしら............?)
お父様の困ったような表情を見て、私はまた不安になった。
きっと何か良くないことが起きているに違いないと思ったからだ。
けれど私に出来ることはない。
「お父様..............?」
私が尋ねると、お父様はゆっくりと首を振った。
それから安心させるように私の肩に手を置いて微笑むと、口を開く。
「とにかく、その件はこちらで何とかしておくよ」
「あ、ありがとうございます............!」
(良かった、これでひとまず安心ね............)
私はホッと胸を撫で下ろすと、お父様に心からお礼を言ったのだった。
(お父様からの連絡はまだないのかしら...............?)
あの一件以来特に何もなく平和に過ごしていたのだが、未だに解決していないのは少し気になっていた。
お父様のことだから、大丈夫だとは思うけれど..................やはり不安に思ってしまうものだ。
「シャーロットお嬢様」
その時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきたので私はそちらに目を向けた。
レタの声がしたので、私はベッドから立ち上がると部屋の扉を開けることにした。
「どうかしたの?」
(もしかして何かあったのかしら.............?)
そんな不安を抱きつつ聞いてみると、彼女は少し申し訳なさそうな表情を見せた後で言った。
「実は旦那様から伝言がありまして..............」
(やっぱり何かあったんだわ!)
私がごくりと喉を鳴らすと、レタは言いづらそうにしながらも口を開いた。
「実は................旦那様は急用で数日ほど家を離れることになりました」
(え...........?)
予想外の答えに私は驚いてしまった。
てっきり何か進展があったのかと思っていたのだが、まさかお父様が不在になるとは思ってもみなかったからだ。
「そ、そうなの」
(どうしようかしら.................)
私は困惑しながら考え込んでしまった。その間もレタは心配そうな様子でこちらの様子を窺っているようだ。
(やっぱり私一人でどうにかするしかないわね!)
そう決意して私は顔を上げた。すると彼女はホッとしたように胸を撫で下ろしている。
「お嬢様、何かあればすぐ私に言ってくださいね」
(ありがとう、レタ)
私は心の中でお礼を言うと、彼女の手を握った後で口を開いた。
「ええ、分かったわ」
(とりあえず今はお父様が不在になったことを喜んでおきましょう...............!)
私はそう思うことにした。
なぜなら、その間に例の婚約者が来ることもないだろうと考えたからだ。
だって国王陛下の名代として家に来るなんて普通に考えておかしいと思うし..............きっとお父様が上手く対応してくれているはずだと思う。
「レタ、私は大丈夫だから貴方は休んでいいわよ」
私がそう言うと、彼女は少し悩んだ後で小さく笑った。
「お嬢様がそう言うなら..............そうさせて頂きます」
(良かった)
これでひとまずは安心ね.................。
ある日私は紅茶を飲んでいたのだが、ふとある疑問が浮かんだのでレタに聞いてみることにした。
「ねぇ、レタ」
(もしかしたら、彼女から何か分かるかもしれないわ..........!)
私は期待を込めて彼女に問いかけたのだが、何故か彼女は難しい表情を浮かべて黙り込んでしまった。そしてしばらくの間悩んだ後でゆっくりと口を開く。
「それが.........実は私も詳しいことまでは聞いていないんです」
予想外の答えに私は驚いてしまった。てっきりお父様と仲の良いレタなら、何か知っていると思ったのだけれど.........どうやら違ったらしい。
(どうしようかしら........。)
少し悩んだ後で、私は諦めたように小さく息を吐いた。
正直これ以上考えても、何か分かる気がしなかったし仕方ないだろう。
「そう....」
(まあ分からないのなら仕方ないわよね........)
私がそう言うと、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべてから口を開いた。
「.........ただ、国王陛下の御名代として来たということは、間違いなくそれなりの地位にある人物だと思います。」
(それはつまり、貴族ってことよね)
私は心の中で呟くとレタに向かって頷いて見せた。
「分かったわ、ありがとう」
私はホッとして胸をなで下ろした。
あの手紙だけでも十分すぎるくらいの証拠になる。それにお父様のことだから、今でもきっと上手く対処してくれているのだろう。
そんなことを考えていると、不意に部屋のドアがノックされたので私が返事をする前にドアが開かれた。
そしてそこに立っていたのはお母様だった。
「あら、起きていたのね」
お母様が微笑みながらそう言うと、私は小さく会釈をした後で口を開いた。
「はい........少し眠れなくて」
(お母様がここに来るなんて珍しいわね.........)
普段はあまり私の部屋に来ることはないのだが、何かあったのだろうかと心配になってしまう。
(まさか、私が婚約のことで悩んでいるのを気付いているのかしら........?)
そんなことを考えていると、不意にお母様が口を開いた。
「実はシャーロットに贈り物があるのよ」
予想外の言葉だったので私は驚いてしまった。
「私に.......ですか?」
私が聞き返すと、お母様は微笑みながら言った。
「ええ、そうよ」
(何だろう.......?)
私は首を傾げながら考えるが何も心当たりがなかったので、お母様の言葉を待つことにした。
すると彼女はゆっくりとこちらに近付いてくると、私の手を取りながら言った。
「この指輪を受け取ってくれるかしら?」
そう言いながらお母様が見せたものは、銀色のリングだった。
しかしあまり装飾品を着けたことのない私にとっては、全く馴染みのないものだったので少し戸惑ってしまう。
「これはね、私が若い頃に付けていたものなのよ」
(お母様が?)
それを聞いて私は少し驚いた。
確かに、お母様が若い頃ならこれくらいの物を持っていても不思議ではないけれど..........。
「でも......とても大切な物なのではないですか?」
私は困惑しながらも尋ねた。
すると、お母様は微笑みながら言った。
「ええそうよ、でも貴方に受け取って欲しいの。
この指輪が貴方のお守りとなってくれるわ。」
その言葉を聞いても私はまだ迷っていたけれど、最終的にはお母様の気持ちを受け取ることにした。
「分かりました..........」
(せっかく頂いたものだし大切にしないとね)
私が小さく頷くと、お母様は嬉しそうに顔を綻ばせた。
そして私の右手をそっと持ち上げると、その薬指に指輪をはめてくれた。
「ありがとう.......嬉しいわ」
(お母様..........)
私は胸の奥が熱くなるのを感じていた。
まさかこんな形でプレゼントを貰えるとは思ってもいなかったから、余計に嬉しくて堪らなかったのだ。
(本当にありがとう、お母様)
心の中で感謝しながら、私はそっと左手でリングに触れてみた。
すると不思議なことに、ずっと昔から付けていたかのようにとても指に馴染んでいるように感じたのだ。
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