第5話 思い出
ところ変わってまた公園。さっき幹夫さん達がいたところよりこじんまりとした、住宅街の中にある子ども達の遊び場です。広々としていて遊具も豊富だったあちらと違って、こちらは砂場と、さび付いた滑り台があるだけのささやかなものです。
休日だというのに人気のない公園のベンチを陣取って、少年が二人、携帯ゲーム機で遊んでいました。ゲームの中で超特大サンドイッチを作ったり、集めたモンスターを交換したり、戦わせたり。物語の大冒険を共有して大はしゃぎです。
「ハルトー、ずかんうめたいからでんせつモンスターいっしゅんだけコーカンしようぜ、バージョンちがいのやつ」
「もちにげすんなよー?」
「しねぇって、こっちだってレアもの出すんだからさ。リスクありすぎ」
ハルトと呼ばれた少年のフルネームは
ゲームに夢中になっているハルトくんの携帯液晶画面に、先ほどのタンポポのわた毛がくっつきました。普段ならゲーム機についた変なものなんて、うっとうしく払っておしまいですが、それがタンポポのわた毛だった事で、ハルトくんの思い出が呼び起こされました。
──ほらハルト、タンポポのわた毛だ。タンポポのわた毛はな、父さんが飛行機でも使わないととても飛べないくらいの距離や高さを平気で飛んで行って、新しい芽を出すんだ。ハルトも息を吹いてお手伝いが出来るよ、やってごらん。
旅客機のパイロットであるハルト君のお父さんは、大型連休こそ書き入れ時というやつで、外国へ人を運ぶ国際線の担当をしているのもあって、おうちになかなか帰ってこれません。だからまだ幼稚園に行ってたころ、一緒にわた毛を吹き飛ばした思い出は、ささやかでもハルト君の数少ないお父さんの記憶なのです。
指で払う代わりに、ハルト君は液晶画面のわた毛をフウーッと吹き飛ばしました。わた毛はハルト君の息の補助から、うまく風に乗り、またどこかへ飛んで行きました。
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