第2話 花の腰かけ

 怖いやら、見たことない景色に興奮するやらでキャアキャアわめいていたわた毛は、どこかのお家のお庭の鉢に落っこちました。


『あらごきげんよう』


 降りたわた毛にあいさつする声が、すぐ下から聴こえます。鉢に植えられたマーガレットの花びらの上に、わた毛は落ちたのでした。 


『こんにちは。さっきお空の真っ白な雲を見て来たところよ。あなたの花びらも真っ白で綺麗ね』

『ありがとう。あなたの白わた毛の飛び道具も素敵よ』

『何だかお母さん花の上にいるみたい』

『あなたとわたくしは親戚みたいなものですからね。もっともわたくし達は、人間が接ぎ木で増やすことのほうが多いのですけれど。風がまた吹くひとときだけ、ここで休んでらっしゃいな。ここにもいろんな種類のタンポポのわた毛が来るのよ。あなたはなんてタンポポかしら?』

『わたし?わたしは──』


 わた毛の中に、遠い異国の情景と、代々この土地の野原に増え続けたタンポポの記憶が、ゴチャゴチャに混ざって浮かんで来ました。


『わたしは遠く、西の洋でもあるし、小さな島の、ここのタンポポでもあるみたい』

『そう、あなたは西洋にもこの土地にもご先祖様がいるのね。かくいうわたしも、本当はこの島には咲いていなかったのよ。遠い遠い場所から、この島まで、ご先祖様の株が運ばれて来たの──もうお別れの時間みたいね、ごきげんよう』


 風の力を借りてマーガレットがペコリとお辞儀をすると、わた毛はまた風の向くまま吹き飛ばされて行くのでした。

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