わた毛ふわふわ、旅をする~人とわた毛の始まり~
豆腐数
第1話 スタート
五月始めの、よく晴れたゴールデンウィークのことです。土地主さん募集中の、何もない空き地に生えるタンポポの花茎がありました。ロゼットの葉っぱのクッションの上でくったりしょげていた頭を、青空に向けてピンと伸ばし、真っ白な帽子をつけていました。帽子を作る一つ一つのわた毛が、タンポポの種子で、いわばこのお母さん花の子ども達なのです。
『いよいよ旅立ちだよ』『不安だなー』『ぼくら生き残れるかなあ』『やるかやられるかー』『しなばもろともー』『巻きこむんじゃねーやーい』
ガヤガヤと騒がしい、わた毛の帽子の真ん中辺り。一等仲良しのわた毛の姉妹が、そよ風に飛びそうになるたび、ひしと身を寄せ合って別れを惜しんでいました。
『きっと次の強風で、わたし達も新天地よ。そしたらお別れね。黄色い花だった時から培った、優しいお日さまの匂いの記憶、枯れるまで忘れず生きていくわ』
『お姉さん!』
妹わた毛が感極まって、お姉さんわた毛を花達だけに伝わる言葉で呼んだのがスタートの合図だったかのように──。わた毛達は空へ旅立って行きました。
妹わた毛──今は一つっきりのただのわた毛は、くるくると風と空の中で回りながら、青のキャンバスの中にぽっかり浮かぶ雲を間近に見ました。優雅そうに見えて、鳥のようには一人で飛べないわた毛は、どんどん雲が遠くなるのを感じながら、徐々に徐々に落下していくのでした。
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