新生活は不安でいっぱい

とりあえず 鳴

新生活は不安がいっぱい

「え、やだ、怖い」


 就活を始める時もそうだったが、来月から一人暮らしで新生活が始まると思うと急に怖くなるのはきっと私だけではない。


 就活だってしたくなかった。


 人と話すのは怖いし、社会は嘘ばかりだから。


 だけどお金をかせがなければ生きていけないからと自分を殺して頑張った結果仕事は決まった。


 選びながら「本当にこれでいいのか? 私はやっていけるのか?」と悩むだけで行動に出ない私だったけど、後戻り出来ないように職安に向かった。


 一週間かけて中に入った。


 コミュ障な私の相手をしてくれた……あの人には感謝だ。


「なんで仕事をしなきゃいけないんだろ。お金を稼ぐ為なんだけどさ」


 これを思うのも私だけではないはずだ。


 それを話せる友達がいないからわからないんだけど。


「仕事してご飯食べて寝て、また仕事して。その繰り返しなんでしょ、しかも残業無しは最初だけ、完全週休二日制も最初だけ。それを知っててもお金の為に働かなければいけないのだよね」


 私だって何も知らないでそんなことを言ってる訳ではない。


 新卒一年目で仕事はしていた。


 だけど半年を超えたあたりから、残業や休日出勤が増えて気づけば身体を壊していた。


 そして休むことが増えてきたら自主退職を促された。


 クビにすると退職金が発生するからなのもわかっている。


「もう一年は充電期間ニートを続けたいよ」


 今は実家暮らしだ。


 父と母はもう少し休んだ方がいいと言うけど、貯金が尽きそうなので仕方ない。


 実家から通えばいいのかもしれないけど、それを一年続けて辛かったので一人暮らしを始める。


 その部屋を見つけるのも一苦労だった。


 本当にそこでいいのか悩み、一つに絞った後にも他のところを探すので、これも後戻り出来ないように不動産屋さんに行った。


 こっちは近いのもあって二週間かけて。


 私の相手をしてくれた……あの人にも感謝だ。


「二人に感謝はしてるけど、ね」


 結局相手の真意なんてわからないから、ただ余っていたものを紹介されただけかもしれないというネガティブな発想は拭いきれない。


 だけど自分で決めてたら一生決まらないのもわかるから、たとえ残りものだとしても感謝だ。


「大丈夫かな、最初の月に給料が振り込まれなくて家賃が払えないとかないよね」


 全部決まると今度はそんな不安が募る。


 何か別のことをしてても「あれは大丈夫かな」と不安になって何も出来なくなるし、何か不備があって本当は就職が決まってなかったとか、アパートの契約が出来てなかったとか、考え出したら止まらない。


 だから落ち着く為に私は唯一信頼出来るカモノハシのぬいぐるみのあーさんを抱きしめる。


 ちなみに名前の由来は何も思いつかなかったから五十音の最初を選んだだけだ。


「あーさんが居れば安心出来るー。あ、そっか、あーさんが居るから一人暮らしじゃないや」


 そう思うと不安を少し忘れられる。


 少ししたらまた思い出すけど。


 あーさんに吸わせた不安を「忘れるんじゃねぇ」って返されてるような感じだ。


「あーさん、いつもありがとう」


 そう言って私はあーさんのおでこにキスをする。


 これで動き出したり話しかけたりしてくれたらもっと不安が減るのだろうけど、現実は甘くない。


「そろそろ寝よっか」


 自宅警備員の朝は早い。


 朝早くから家事を全てやらなくてはいけない。


 まぁそれは学生時代から変わってないのだけど。


 そんなことを考えながらあーさんと一緒に布団に入る。


 そうするといつも急に眠気がきて、電気を消すのとほとんど同時に寝てしまう。


 だから毛布は掛かってないはずなのに、いつもちゃんと掛かっている。


 私が寝ぼけながら上手いこと掛けているのか、両親は……ありえないので、多分そうだ。


 前に一度、私のおでこにもふもふした感触を感じたことがあるけどもしかしてあーさんが……なんて思ったりもした。


 そんなことはあって欲しいが、ありえないのだよね。

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