《オマケの話》四天王になれなかった男

(Side:ロック)


 あーあ、負けた……か。


 見上げた空が悲しい程に青い。


 三日間に渡る死闘を繰り広げた俺の身体は、もう立ち上がる事さえ出来なかった。


 ふっ、アイツ……


 倒した相手の事なんて気にしなければいいのに、フィフスは足を引き摺る様にして必死に俺の所までやって来る。


「俺の負けだよ。……おめでとう、フィフス」


 どう足に力を入れても立ち上がる事も出来ず、俺は手だけを伸ばした。


 その手を強く握り締めたアイツの叫びを聞きながら、俺の目からは一筋の涙が溢れた。



 ああ……

 ミリーちゃんに告りたかった……!!



 俺はこの戦いに勝って四天王になれたら、ずっと片想いをしていた竜人族のミリーちゃんに告白しようと、これまたずっと前から決めていた。


 ミリーちゃんは、そこらのミーハー女子とは違う。モテモテイケメンとかではなく、真の実力者が好きなのだ。

 

 以前、魔族一の美形と名高いバンパイア族のイッケメンに告られてバッサリ切った時に言っていたのだ。


「私、ああいう所謂いわゆるモテ男って苦手なのよね。自分の想い人の魅力は、自分だけが知っておきたいと思わない?」


「じゃあ、どんな男ならミリーのお眼鏡にかなうのかな?」


「ここは魔王軍よ、決まってるじゃない。『強い男』よ」



 その日から俺の地獄の様な特訓の日々が始まった。

 同じく四天王を目指すフィフスと二人で毎日毎日、夜明け前から日が暮れるまで。

 まさに修行に明け暮れた。


 そして、その結果が今出た訳だ。



 もう、あんな日々も終わりなんだな……。




 四天王にはなれなかった俺だが、あの日の戦いは高く評価され、魔王軍での地位はかなり上がった。


 そして俺の名前にはこんな枕言葉が付く様になった。


 『次期四天王の呼び声も高い』……と。

 

 



「キャッ! 次期四天王の呼び声も高いロックさんよ!!」


 俺が歩くだけで、何故かあちこちから黄色い悲鳴が上がる。


 違う。そうじゃない。


「あの、ロックさん! これ読んで下さい!」

「ダメよ、ロック。女に恥をかかせないで?」

「ロックさん、お昼まだだったら、これ、お弁当なんですけど……」





 なんで!? どうして!??




 なんで俺がモテちゃうのさ!?

 俺はモテちゃ駄目なんだよ、駄目なんだって!!

 だってほら見て、ミリーちゃんの俺を見るあの目。


 何かもう、ゴミ屑みたいに見てくるじゃん!?


『あーあ、ロックもつまんない男になったわね』


 って、完全に目が口ほどに語っちゃってるもん。



 ううっ、どうすればモテずに実力を示せるんだ。

 頑張って強くなったのは、モテたかったんじゃない。ミリーちゃんに告りたかっただけなんだ。


 俺がモテる男になったせいなのか、最近何だか塩対応なミリーちゃんを恋しく思いつつベッドで丸くなる。

 

 迂闊に外を出歩くと、『キャー、次期四天王の呼び声も高いロックさんよー』となるのだ。ツラい。


 そして、それを辛いと愚痴ったら、隊員達にボコられたのだ。ツラい。



 俺がベッドで丸くなってメソメソしていると、ドンッと、ノックにしては乱暴過ぎる音が部屋に響いた。



「ちょっとロック! 今日までに提出の遠征費の申請書類が出てないじゃない!?」


 み、ミリーちゃん!?


「次期四天王の呼び声も高いロックさんはぁー? お忙しくって事務作業なんて忘れちゃったかしらぁ?」


 うげ、なんかめっちゃ怒ってる!!



「もう限界! どんっっっだけ、待たせれば気が済むのよ! このっ唐変木とうへんぼく!!」


 唐変木!? 随分レトロな罵り方を!??


 ……いや、そっちじゃなくて、どんだけ待たせればってどういう意味だ?

 書類の事? 締切り今日なのに?



「男のプライドもあるだろうから、大人しく待っててあげたって言うのに……何モテてんのよ! アナタ、私に惚れてるんでしょう!?」


 ズンズン近付きながらそう言い放つミリーちゃんにギョッとする。バレてた!!


「ちがっ、モテたかった訳じゃなくて、四天王になって実力が示せたら、ミリーに交際を申し込みたかったんだよ!」


「……で、もういい訳?」


「……と、言いますと?」


「四天王にはなれなかったし、私の事はもういい訳? そりゃあれだけモテる様になれば私にこだわる必要ないわよね」


「ちがっ、違うよう! 次こそ四天王になれたら今度こそちゃんと告白を……!」


「何百年先だよ!? ババアになるわ!!」



 ズンズンこっちに近付いていたミリーちゃんは、そのままベッドにズイッと乗って来る。



「今回四天王の座が空いたのも百年ぶりでしょうが!? 次がいつになると思ってるの? あの脳筋ダルマ辺り闇討ちしましょうか?」


 いやあぁぁ、セカンドさん夜道に気を付けてぇー!


 正直ミリーちゃんの実力は未知数だが、何せ彼女は竜人族。能力の高さは折り紙付きだ。

 加えて、俺たちは先輩達からガッツリ釘を刺されている。


『絶っっっ対にミリーを怒らせるな』


 と。


 手遅れです!

 もうバチボコに怒ってます!!


「ごめん、ミリー! 待って、とにかく待って。冷静に話し合おう」


「だから、いつまでも待って貰えると思ったら大間違いなのよ!」


 ベッドに上がったミリーちゃんはそのまま躊躇する事なく、仰向けに倒れた俺の上に馬乗りになる。


「み、ミミミミミミリーさん!!??」


 ミリーちゃん……いや、ミリーさんは妖艶に微笑むと言った。



「もう待たないわ。ロック、私のモノになりなさい?」



 •


 •


 •



「ハイ! 喜んでーーー!!」




 その後、四天王になったのにモテないフィフスがいじけたり、ミリーちゃんと付き合ってるのが即バレしてみんなにボコられたり、ちょっとゆうべはお楽しみし過ぎてウッカリ勇者に負けてフィフスに泣かれたり、と色々ある訳だが———。




 ——— それはまた、別のお話。

(てか、そっちが本編な☆)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 天使の様に優しい読者様の、ミリーちゃんとロックサイドの話も見てみたい、という言葉を真に受けて書いちゃいました(≧∀≦)


 お読み頂いた方々、ありがとうございました!

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四天王始めました〜あの日の闘いに勝って四天王になったけど、『四天王の中で最弱』とか言われるのがツラ過ぎるからもう辞めたい。〜 時枝 小鳩(腹ペコ鳩時計) @cuckoo-clock

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