四天王始めました〜あの日の闘いに勝って四天王になったけど、『四天王の中で最弱』とか言われるのがツラ過ぎるからもう辞めたい。〜
時枝 小鳩(腹ペコ鳩時計)
この戦いから戻れたら、俺、結婚するんだ!
ハァッ、ハァッ、ハァ……
勝っ……た…………。
勝った! 勝ったぞ!!
三日間に渡り繰り広げた死闘。
最後はどちらが勝ってもおかしくない完全に紙一重の勝利だった。
満身創痍の体を引き摺り、先程まで死闘を繰り広げていた相手の元へと進む。
アイツは倒れたまま、俺に向かって手だけ伸ばすとニヒルに笑って言った。
「俺の負けだよ。……おめでとう、フィフス」
俺は伸ばされたアイツの手をガシッと握るとこう叫んだ。
「今日から俺が! 四天王だーーー!!」
ウオォォォ……! と、三日間の死闘を見守っていた魔族達から地鳴りの様な歓声が聞こえる。
そう、あの日、俺はついに新たな四天王の一角となったのだ。
新たな人生の
…………。
なーんて、喜んだ時期が俺にもありましたよ。
『おい、フィフス! これ洗っとけよ』
『ねぇ、フィフス、お菓子買ってきてー』
『よーしフィフス! 城周り5000周走るぞ!』
四天王の先輩三人に、めっちゃこき使われるしパシリにされるし無茶振りされる。
でもそれはいい。
それは全然構わない。
魔王軍は超絶体育会系。上下関係は絶対だ。
洗濯なら一切の黄ばみを許さない程真っっっ白に洗い上げてみせるし、人気のパティスリーのケーキだって秒で買ってくる。城周りなら何なら一万周だってする。
しかし、そんな俺の心をポッキポキと小枝の様に折っていくのが……
『ふっ、フィフスを倒したか……。
——— しかし! 奴は四天王の中でも最弱!!』
これえぇぇぇぇー!!!!
酷くない? 魔王様酷くない??
俺、仲間よ。部下よ?
普通やられたらもっと怒ってくれても良くない?
何でドヤ顔で俺をディスるの!??
俺がもっと雑兵だった頃勇者パーティにやられたら、
『私の可愛い部下が世話になった様だな!』
って怒ってくれたじゃん。
俺、もっと魔王様の役に立ちたくて頑張ってここまで出世したのにぃ……。
「ううううう……」
俺が毛布にくるまって泣いていると、バーーーン! と扉が開いて幼馴染の獣人族、ウサ耳のエイミーがズカズカと入って来た。
「もーう! いつまで寝てるのよフィフス。朝ごはんの片付けが出来ないから早く食べちゃって!」
「だって、昨日も最弱って言われた……ぐすっ」
「メンタルよっわ! 四天王が聞いて呆れるわ」
「
「はあぁぁー!?」
『フィフス、四天王辞めたいんだってよ!』
———という噂はあっという間に魔族の間を駆け巡り、午後にはうちにアイツが押しかけて来た。
そう、百年ぶりに一つ空いた四天王の座を賭けて開かれた武闘会の決勝で、俺と死闘を繰り広げたアイツ、 ロックだ。
「フィフス!! お前、四天王辞めたいとかふざけた事言ってるらしいじゃないか!?」
俺が毛布にくるまってスンスン言っていると、バーーーン! と扉が開いてロックが入って来る。
分かる、分かるよロック。
そりゃそうなるよな。
毎日毎日、朝早くから日が暮れるまで一緒に修行してさ。
『どっちが勝っても恨みっこ無しだぜ!』とか言って、リストバンド交換してさ。
武闘会ではあんな死闘を繰り広げてさ。
俺だってお前の分も立派な四天王になろうと思ってたよ。
でも!
でもなぁ!!
「うるっさい! お前に俺の気持ちの何が分かるんだ!!」
「何だとお前!? お前こそ俺の……」
「ロックお前、『魔王軍の中でも次期四天王の呼び声高い』とか言われてモッテモテらしいなあぁぁー!??」
これえぇぇぇぇー!!!!
なんっで勝った俺が『四天王最弱』とか低評価くらって、負けたロックが『次期四天王の呼び声高い』とか高評価ウマーーーしちゃってんの!?
「い、いや……それは、まぁ……」
「しかも! お前!! みんなのアイドル、竜人族のミリーちゃんと付き合い始めたらしいなあぁぁ!?」
「まぁ、その……うん」
「俺も! モテたいぃー! 彼女欲しいぃー!!」
「お、おいフィフス。お前頼むからもう少し四天王としての威厳的な物を……」
「どうせ俺!! 最弱だし!?」
そう叫ぶと俺はまた毛布に逃げ込む。
うぅっ、情けない。
情けないけど、現実が厳し過ぎる。
憧れの魔王様は塩対応だし、四天王になればモテると思ってたのに全然モテないし……。
「フィフス! ロック! 緊急招集よ!! バーランドの勇者パーティが最終ダンジョンを抜けたわ!」
「ちっ、今度はバーランドかよ。じゃあなフィフス、アホな事ばっかしてないでお前も城壁で待機しろよ!」
部屋に飛び込んで来たエイミーの話を聞くと、素早くロックが飛び出して行く。
ロックの部隊は魔王城手前の最終防衛ラインに配置されているのだ。
そこを突破されると、四天王の
「さっきの話、聞いてたんだけど」
ポツリとエイミーが言う。
いつになく真面目なトーンのエイミーの声に毛布から顔を出すと、エイミーは怒ってる様な泣きそうな様な何とも言えない表情で俺を睨んでいた。
違うな、これは睨んでるんじゃなくて、エイミーの目元が少し赤くなってるこんな時は——
「わ、私にしとけばいいんじゃない!?」
「!?」
思わずガバッと毛布から飛び出す。
「それって……」
「だからっ、か、彼女がそんなに欲しいなら、私にしとけばいいじゃない!!」
嘘だろそんな。
……え? マジで!? いやでも、だって———
「でも僕!! まだモテてない!!」
「もう! 何でそんなにモテたがるのよ!?」
「だって、昔エイミーが言ったんじゃないか! 『モッテモテな男が自分にだけ一途なのが堪らない』『乙女の夢だ』って!!」
「……へ?」
エイミーがポカンと僕を見る。
そう、子供の頃エイミーがそう言ったのだ。
あの頃の僕は、エイミーが好きで好きでいつも付いてまわっていて。
何回も『お嫁さんになって』って頼んだのに全然本気にしてくれなくて。
じゃあどんな男がいいのかって聞いたら、そう言われたのである。
「……言ったわ」
「でしょう!?」
「え? え? じゃあフィフス、モテたいから四天王になるって言ってたあれ……え?」
ボボボボッとエイミーが赤くなる。
「そんなの、エイミーと付き合いたかったからに決まってるじゃん! エイミーの夢を叶えたかったんだよ!!」
「ええええーー!??」
いつもの強気はどこへやら。
真っ赤になって、はわわわしてるエイミーが無茶苦茶可愛い。
「エイミー、僕……
「ごっめーーーん!! ラブコメ中悪いんだけど、ロック負けそう!!」
満を持してエイミーに告白しようとしていた僕の背後で、無情にも、バーーーン! と扉が開いてロックの彼女のミリーちゃんが飛び込んで来た。
「あんっの野郎おぉぉー!! 根性だせやあぁぁ!?」
とはいえ、俺は四天王だ。
魔王城に勇者パーティの侵入を許す訳にはいかない。
俺は四天王だけが身に着ける事を許された漆黒のマントに素早く身を包み、愛用の剣を腰に差した。
「エイミー! 俺が生きて帰れたら結婚しよう!!」
それだけ言うと、エイミーの返事は聞かずに走り出す。
「フィフスくーん!! それ、立てちゃ駄目なフラグだよー!!」
……ヤベ。
その後の話を少ししよう。
俺はあの後、無事勇者パーティを撃退する事に成功した。
考えてみれば、俺とロックの実力差は殆ど無いのだ。
そのロックが部隊を率いて戦って負けた相手に、俺が一人で勝てる確率がどれ程あるというのか。
でも俺は勝った!!
まさに愛は勝つ!!
ミリーちゃんとラブラブちゅっちゅで『ゆうべはおたのしみでしたね』してたロックとはハングリー精神が違うのだ!!
……ていうか、四天王になった途端一人で戦えとか、何故にこの世は四天王に対してそこまで厳しいのか……?
「まぁいいじゃない。その分四天王には四天王手当てとか、常駐警備の免除とか色んな特典もあるんだし!」
真っ白なウェディングドレスに身を包んだエイミーがひょっこりドアから顔を出す。
可愛すぎて気絶するかと思った。
そう、今日は俺とエイミーの結婚式だ。
例の盛大にフラグを立てたプロポーズが見事成功し、俺とエイミーは交際期間もすっ飛ばかして本当に結婚した。
周りは驚いてたけど、俺の片想い期間の長さを舐めんなよ!?
「エイミー、綺麗だよ……」
真っ赤になって照れるエイミーを抱き寄せて、式の前だけど、ちょっとチュッとする位いいかな!? いいよね!?
と、やましい事を考えたのがいけなかったのか。
無情にも、バーーーン! と扉が開いてミリーちゃんが飛び込んで来た。
「ごっめーん、ロック負けそう」
「ロックの嘘つきいぃぃぃー!!」
『任せとけよ。親友の結婚式の邪魔はさせないぜ!』
ってめっちゃキメ顔で言ってたじゃん!?
しかし、俺は四天王だ。
魔王城に勇者パーティの侵入を許す訳にはいかない。
「お仕事頑張ってね! フィフス!」
可愛い嫁の声援を背中に受けて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
長い間ご愛読ありがとうございました!
鳩時計先生の次回作にご期待下さい!
……なんちゃって(๑´ڡ`๑)テヘペロ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます