第6話
「では、引き続き、今回は”可愛いスキル”について話を進めたいと思う」
また、赤坂は唐突に始めた。
「良いぜ?……ただその前に一つ確認させてくれ」
この日の俺は、何となく”その”物語について真剣に向き合ってみようと思った。
沼田は相変わらず、炬燵でゴロゴロしていた。
「なかなか感心な態度だな。どうした?」
今までとは違い協力的な態度に赤坂も気が付いたようだ。
上から目線は、未だに腑に落ちないが、この馬鹿馬鹿しい会話が、自分の創作の糧になる気もしたのだ。
「大した意味はねぇよ。何となくだ」
俺は、誤魔化して答えた。
後から盗作だと言われるのには注意しておこう。
あと、極めて僅かにほんの少しだけ、趣味を共有できる仲間がいるという事に喜びを感じたのも嘘ではない。
「そうか。では何を確認したいんだ?」
「本当に”お腹がゆるい令嬢”が主人公で良いんだな?」
確認しながら、自分の言っている言葉が間抜け過ぎて、真剣に話しているのが馬鹿らしくなってきた。
俺は何を言っているんだ?
「何か代案があるのか?」
「……いや……無いな」
『ゆるい』という言葉はなかなかに解釈の難しい物だった。
グ〇った結果のトップに出てきたのは――
1.ゆるんだ状態にある。ゆるやかだ。はげしくない。
2.かたくない。
「―大便」
「1」に関しては意味は分かるが、具体的にはよく分からない。
今回のケースに当て嵌めれば、少なくとも暴力系ヒロインでは無いのかな?という程度だ。
「2」に関しては――
天下のグー〇ル様でも例文でそれを出すのかよっ!!
という、事実を受け、認めざる負えなくなった。
つまりは世間一般で使われ易い「ゆるさ」とはそういうものなのだろう。
一般認識に寄り添うというのも創作にとって必要な部分だと感じているのだ。
「代案が無い以上、それで行くしか無いだろう?」
「分かった。それでいい」
よく考えれば、俺が生み出す作品では無い。
下手に他人が口を出すべきでは無いし、赤坂の思うようにやればいい。
それがWEB小説の醍醐味ではある。
事実、俺には何の影響もない事だ。
「では、話を戻し”可愛いスキル”についての話だ」
このくだりまでに意欲を削がれ、再びいつもの”どうでもいい”モードに入りかけていた。
「え~。なんか、ふわふわポワポワしてて……クマのぬいぐるみとか出すとかで良くね?」
俺の返答は明らかに適当なものになっていった。
徐々に、いつもの読書(漫画)モードに入っていた。
さて、この間は何巻まで読み進めていたんだっけ?
「それでどう戦うのだ?」
バトルものだったのかよっ!!本当に何を書くつもりなんだ?
むしろ何か構想あるんじゃ無いのか?
いや、まぁ、しかし、その後に続く「追い出しを始めました」という言葉を考えれば、バトルを想像出来なくも無いか。
「クマのぬいぐるみが押しつぶすとか、殴るとか、腹の中に閉じ込めるとか……。背中のチャックに閉じ込めるのも良いかもなぁ」
適当にだが、その時に想像したのは『アイアン・メイデン』
何の事は無い、読んでいた漫画の中で出てきたからだ。
「それは”可愛い”のか?」
赤坂の問いに、一瞬考えた。
あくまで可愛いのはクマのぬいぐるみであり、その行為が、こと暴力に使われた場合にそれは”可愛い”とは言えない。
いや、少なくとも俺が今想像したモノは”可愛い”とは程遠い”グロい”モノに成り兼ねない。
抜本的には間違っているのか?
そうなると”可愛いスキル”を相反するような存在の”バトル”に組み入れるのは最初から無理がある気がする。
「”可愛いスキル”じゃなくて、”可愛い”と”スキル”を区切ってみれば?」
唐突に沼田が言った。
何故、彼がそんな事を言ったのかは分からない……
が”言い得て妙”だ。
区切り方を変えただけで印象は変わる。
天才かっ!?
すぐさま、”可愛い”について調べてみた。
グー〇ル先生の解答は――
1.(小さくて)愛らしい。「―子ねこ」。小さい。
「―電池」
2.同情を誘うばかりに(痛々しく)かわいそうだ。
「寒空に吹きさらしのお前が……」
いや、分からんて……。
先ず、”電池”って……。
それに「2」って、可愛いじゃなくて、可哀そうじゃないの?
何か深読みし過ぎじゃない?
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