第4話


 「で、この間、話していた”ゆるい令嬢”の件なのだが…」


 赤坂がなんの話を始めたのか、一瞬分からなかった。

 なぜ突然、微妙に卑猥そうな言葉を口走った?と困惑した。


 だが、思い出した。

 まだその話を続けるのか……。


 元旦、2日と、久々に会う親戚等と顔合わせたり、昼間から酒を飲んだりして如何にも正月という生活を送っていた為、完全に忘れていた。

 そもそも、憶えていなくてはいけないような重要な話ではない。


 そして、俺はまたしても赤坂の家に居た。

 当然、沼田も居る。

 何故いつもここに居るのか?と、問われれば、単純に居心地が良い。

 ”気心知れた友人といるのが楽しいんだ”とかいう、美談では無く、物理的に居心地が良いのだ。

 20畳のリビングダイニングに、60インチテレビ、他に2部屋もあるマンションの一室。

 洋室なのに何故か炬燵を置いている配慮も完璧だ。

 更には多くの漫画本と、インターネット完備。

 飲食物さえ用意すれば、無料で使えるネカフェとなれば退屈しのぎには最適なのだ。


 まぁ、そういった恩恵も受けている為、家賃代わりに家主のくだらない話に付き合ってやるか……。


 「それがどうかしたのか?」

 「その話で始めて見たいと思う」

 「へぇ……」


 感心したわけではない、どうでもいいという返答。

 始める事は悪い事ではない。とは、思っているが。


 「そこでだ”ゆるい令嬢”とは、どういったキャラクターなのだ?」


 いや、そこくらいは自分で考えろよっ!!創作する気あんのかっ!! 

 と、ツッコミたい思いもあったが、前述の理由に加え、適当に生み出してしまったのは自分か……という責任感も少し働いた。

 が、俺が考えるよりも現代には便利なツールが沢山ある。


 「検索してみれば?何か出てくるんじゃないか?」

 「なるほど……」


 赤坂はスマホを操作する。


 「……無いな」

 「んな、バカな!」


 俺も自分のスマホで検索してみる。

 確かに、ざっくり見た感じでは見つからなかった(2024.1.16 グー○ル調べ)。

 あくまで、ざっくりだが……。


 マジかっ!?転生先の時にはすぐに行き詰ったのに!?

 ひょんな事から、とんでもない怪物を爆誕させてしまったのではないか……?

 言われてみれば『令嬢』とくれば『悪役』というのが、昨今のスタンダードではある。

 まさか、こんな盲点が……。


 「では、その令嬢は何がゆるいのだ?」


 言い方っ!なんだか卑猥に聞こえてしまう。

 いや、それも策としてはアリなのか?

 そのタイトルで釣って、実は”ゆるふわ系の事です”ってのなら、後からの言い訳も可能だろう。

 雰囲気?生活態度?……いや、ここまで来てそれでは何か普通過ぎる。

 もっと奇をてらった何か……。

 既に、赤坂が物語を作るという事など忘れ、自分が何か新しい原石を見つけられるのではないか?という、期待感に近いものがあった。

 俺は真剣に考え始めた。



 「……っと」


 唐突に沼田が炬燵から抜け出す。

 向かった先を見て、赤坂は何か閃いた様子で目を見開いた。


 「そうかっ!お腹がユルい!」


 「……それで、いいんじゃね?」


 急に馬鹿馬鹿しくなり、吐き捨てるようにそう言って、漫画本の続きの巻を取りに炬燵を出た。

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