第3話


 「やはり、タイトルを決めてそれに沿った形で書き始めたいと思う」


 赤坂がまた唐突に始めた。


 もうすぐ除夜の鐘が鳴る。

 空気を読んで、あと数十分待つことは出来なかったのだろうか?

 その方がまだ、気分的に乗ったかもしれない。


 「へー」


 いつも通り、赤坂に目を遣るでもなく、炬燵に入りながら漫画本を読んでいた。


 俺と沼田はまた赤坂の家に居る。

 本当に自分は何をやっているのだ?とも思うのだが、もう今年は捨てる事にした。


 気の無い相槌を打ちはしたが、その話自体は間違っていないと思っていた。

 ”名が体を成す”というのは、こと創作に於いて自然な流れだ。


 「で、ここに最近のWEB小説のタイトルでよく使われるワードを『名詞』『動詞』『形容詞』別でカードにしてみた」


 赤坂は数十枚のカードを見せる。


 赤坂のこのよく分からない行動力は何なのだろう?

 もっと他の事に使えないのだろうか?


 だが、内容が少し気になり始め、漫画本を閉じる。


 「それを俺等に引かせてタイトルを決めようって事か?」


 自分でアイディアが思い浮かばないながらに考えたじゃないか、と、少し赤坂を見直した。


 「いや、ただカードにしてみただけだ」 


 なんだよ、それっ!!カードにする意味全くないじゃん!!白紙に書き上げれば良いだけじゃないか!?

 意図を読んで発言したみたいな自分が恥ずかしく思えた。

 俺は頭を抱えた。


 「……だが、悪く無い案だな。やってみよう」


 赤坂はあくまで上から目線で言う。

 何だろう?この敗北感。


 赤坂は手元のカードデッキを裏返しにして炬燵テーブルの上に並べる。


 「選べって事か?」


 自分で言ってしまった以上やるしかないか……。


 「先ずは、この『名詞』デッキから二枚。『動詞』『形容詞』からも二枚選んでくれ」


 気怠く俺は二枚のカードを選んだ。


 「ほう?なかなか……」


 だから、何だよ!?その上から目線!!

 赤坂は俺に選んだカードを見せず、『動詞』のカードに並べ替える。


 同様の作業を『形容詞』でも行った。



 作業を終えた後、赤坂は計6枚のカードをまじまじと眺めていた。


 「お前が選んだタイトルはこれだ!!」


 と、言ってカードを明かす。

 選んだといっても、訳も分からず選ばされただけだが……。


 だが、結果は少し気になっていた。


 名詞――『令嬢』『スキル』

 動詞――『追い出す』『始める』

 形容詞――『可愛い』『ゆるい』


 なかなか、難しいパズルのピースが揃った。


 「お前なら、このカードからどんなストーリーを作るんだ?」


 だから何で上から目線!?

 疑問符ばかりだが、俺にも意地がある。

 二人は知らないが俺も作家の端くれ(底辺)。

 この難題を華麗にクリアしてやろうじゃないか!?


 真剣に考え、暫くの沈黙。


 「『ゆるい令嬢は可愛いスキルで追い出しを始めました』とかか?」

 「なるほど……。で、それはどんな話なんだ?」


 知るかよっ!!

 いや、言った俺が言うのも何なのだが……。


 「あっ、あけましておめでとうございます」


 沼田が唐突に言った。


 気が付けば年が明けていた。

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