第6話 千にして一の剣
視力を失ったルシアであるが、組織に残ることを選んだ。
多くの構成員を失った以上、目の見えない者を囲っておく程の余裕は無い組織であるが、組織の長はルシアの願いを受け入れた。
それは所属する暗殺者の中でも一握りのものしか習得していない高等技術『闇隠れ』の習得であった。
確かに習得できた者は少ないが、今のルシアが組織の構成員として生きていくには必須とも言える技術。
元々その素質を高く評価してた長はルシアに『闇隠れ』を伝授すべくある事を課した。
それは、目隠しをしたままある洞窟の探索を行うこと。
目の見える者であれば1日で探索ができるようなところであるが、今のルシアにとっては1日で10mも進めれば良い程度であった。
しかし、ルシアは知ることになる。
耳で捉えた音、肌や靴底から感じる感触。はたまた僅かな匂い。
それらを組み合わせていくと様々な事の状態を分かることが。
それを理解していくに連れてルシアの進行速度は早くなっていく。
ついに洞窟から帰還したルシアは『闇隠れ』の基礎を体得した事を理解した。
そこから、ルシアは通常の戦闘訓練に参加していくことになり、2年後には組織内でも指折りの戦闘技術を身につけるに至った。
そんなある日、組織が新たな依頼を受ける。
それはとある魔術師が隠匿する宝物の奪取。
なんともお門違いな依頼に感じるが、この魔術師が城塞都市の領主と繋がっており、宝物を奪うことが領主へのダメージになるのであれば話は別である。
すでに『闇隠れ』を完全に体得していたルシアは、まさに闇に隠れつつ魔術師の館へ侵入をはたした。
形容し難い様々な匂いと気配が漂い混沌とした部屋の中、その『剣』は鎮座していた。
光映さぬ瞳にも感じられる圧力とも取れる光をまとう白銀の剣。
それは魔剣と言うには美しすぎる刃。
気がつくと、なにかに吸い寄せられる様にルシアは無防備にその剣を手に取っていた。
強烈な光が頭の中で輝いたと感じた時には、既に彼女は館を抜け駆け出していた。
『彼』は自分を待っていたのだ。
『
事を知った組合の長は頭を抱えることになる。
まさか奪取したルシアを魔剣が主として選ぶことになるとは思わなかったのだ。
魔剣は特性として主を選ぶと、主が死亡するか魔剣が砕けるまで主従関係で結ばれてしまう。
そうなっては引き剥がしてもひとりでに主の元へ戻ってしまう。
したがって受けた依頼は半ば成功したものの最後で失敗したことになる。
約束された報酬は受け取ることが出来ない。
ただ半分は成功しているため違約金を払う必要性は生じなかった事だけは幸いした。
しかし、こうなると立場が危ういのはルシアである。
依頼の品を途中で奪った女として組織内で白眼視されることになる。
ひいてはルシアを優遇してきた長にも批判が来る可能性がある。
その自体は弱体化したまま再建途上の組織としては避けたいところである。
そのため、長はルシアに一つの指令を出した。
それは城塞都市の領主を打ち取るまで冒険者として暮らすこと。
討ち取ったあかつきには復帰を認める条件をつけ、組織はルシアを半ば追放する形で野に下らせたのだった。
もっとも当の本人は仲間の復讐のための武器と機会を得ることになり、意気揚々と旅立っていったのであった。
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